80年代初頭の日本は、高度消費社会の幕開けの時期だった。景気も上向き、全てが前向きな世の中で、人びとは力強くて派手なものを好んだ。
アメリカの大学生のライフスタイルを紹介する雑誌も次々に登場。街には、横浜・元町生まれのファッション「ハマトラ」に身を包んだ女子大生や、ボタンダウンのシャツやトレーナーなど米国の名門私立(プレップ・スクール)に通う学生を模範とした「プレッピー」スタイルの学生があふれた。
「80年代は、若者が服装で個性を象徴する時代に突入する一方で、サラリーマンの背広は男が仕事で戦うための『戦闘服』であり『鎧(よろい)』だった」(ドン小西さん)
もみあげが象徴する「男らしさ」の時代
「浩宮さま」がやわらいだ表情を見せたのは、帰途でメキシコに立ち寄った際だ。
日系人の歓迎会に出席したほか、アステカ遺跡の発掘現場やテオティワカンのピラミッドなどを見学した。遺跡に登る「浩宮さま」の表情には開放感がある。
公式訪問ではないためか、「戦闘服」であるスーツを脱ぎ、白いブレザーに茶色いパンツ姿と、すこしだけカジュアルだ。
長年パリコレで取材を続けた石原裕子さんは、当時の「浩宮さま」は女性の憧れの存在だった、と振り返る。
「切れ長の目に涼しげな面差しは、古風にいえば牛若丸のよう。清潔感のある白いジャケットをお召しの姿は、『王子さま』を連想させますね。汚れを気にせずに白い服を着用できるのは、ぜいたくな装いですから」
「浩宮さま」の長く伸びた髪形も、あらためて見返すと新鮮だ。
「わずかに肩にかかるメンズロングは70年代のヒッピーブームの名残です。ロングヘアと伸びたもみあげ。あの時代の若者は、みんなこんなヘアスタイルでしたね」(石原さん)