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 確かに聴いたことがある、なんなら歌える。でも曲名が思い出せない──。こんな経験、ないですか。BGMなどで日常の一部でありつつハードルが高いクラシック、実は多様な楽しみ方があります。AERA2023年11月6日号より。

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 あるJ-POP好きの20代男性の告白だ。彼女とのデートで渋谷の名曲喫茶に。

「昭和レトロブームの流れで行ったんですけど、かかっているのはCMや授業で聞いたことがあった曲も多い。ただしウンチクのひとつでも放ってかっこつけたかったのに、これがひとつも浮かばないという(笑)」

ジェーン・スー 生活は踊る」(TBSラジオ)では6月と9月に番組内でクラシック曲名あてクイズを開催。メロディーはどこまでも口ずさめるほどおなじみなのに、どうしてもタイトルが出てこない。その悶絶大会ぶりがおもしろかったそう。

 そんな近くて遠い音楽、クラシック。その新しい楽しみ方を提案している人がいる。著述家でプロデューサーの湯山玲子さんだ。ニューヨークにおけるハウスミュージックシーンの本を作ることになり、レジェンドと言われるジュニア・ヴァスケスの8時間に及ぶプレーを体験した。

番号のタイトルは無理

「揺さぶられまして。そしてふと考えると、時間を司る構成など、ワーグナーの楽曲のようで、ものすごくクラシック的だったんですね」

 クラシックの作曲家を父に持ち、母は合唱団の指導者。「一日中クラシック音楽が流れていた」という家で育った湯山さんにとって、親への反発もあって遠ざけていたクラシック音楽を、ニューヨークのクラブのフロアで踊っている人たちに聞いてもらいたいと思った。

 そうして十数年後、湯山さんが主宰するようになったのが、クラシックの新しい聴き方を提案するトーク&リスニングイベント「爆クラ」だ。クラシックのコンサートといえば、基本は音響装置などを通さない「生音」だが、あえてクラブなどで使われるサウンドシステムを使って聴いてみたらどうなる?と考えて「爆音クラシック」、略して「爆クラ」というタイトルに。

 すでに103回が開催され、過去には坂本龍一さんといった音楽家はもちろんのこと、評論家、学者、アーティスト、作家などさまざまなジャンルの専門家を招き、ユニークなクラシック音楽のイベントを展開して大盛況となっている。

 また野外のダンスイベント、レイブからヒントを得て、廃墟となったトンネルでライブをおこなったり、瀬戸内海に浮かべた遊覧船にサウンドシステムを搭載してサンセットや工場夜景に選曲をほどこしたり。その一方で、クラシック以外のジャンルの才能あるアーティストに交響曲を書いてもらいたいという思いから11月25日には、コトリンゴ×首藤康之×オーケストラによる新時代のダンス交響詩「ツバメ・ノヴェレッテ」が予定されている。

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