
――その意図が当たったわけですね。
当てる、という表現がいいのか悪いのかはありますが、ヒットメーカーとして曲を世間に出す以上は、前作よりも「5000枚でも1万枚でも多く売ってやろう!」という気概、プライドが強烈にありました。一枚でも前作より多く売れる曲を作る。一枚でも少なかったら負けだと。当然、アーティストの力、微妙な数字の差はあるのですが、僕らの力、曲の力を精一杯出すんだ、伝えるんだ、売るんだ、という意識、使命感はいつもありました。
依頼に「即OK」は出さない
――アーティスト側から「こうしてほしい、ああしてほしい」と具体的に注文があるのと、注文がなく自由にやるのと、どちらが林さんとしてはやりやすかったのでしょうか。
ケース・バイ・ケースです。その時その時で違いますね。
――アーティストによって違ってくるんですね。
各レコード会社には、創造性のある、明確なコンセプトを持った依頼主、つまり優秀なプロデューサー、ディレクターが何人かいてそういった方々からの発注だったり、逆に「お任せ」で、僕らに自由に創作させて、アーティストのプロデュースさえも作曲家に考えさせる発注だったり。「お任せ」の場合、それも含めて計算していい作品を待つプロデューサーもいれば、計算しないで「丸投げ」ということもありますね(笑)。「オリコンのチャートをみて林さんに書いてもらおうと思った」と言われることもありました。売れればいい、売れる曲を作れとあからさまに求められるのはいい気分ではなかったです。
でもどのみち、僕らは引き受けた以上、その中で最大の答えを出していくしかない。相手がどこまで考えて依頼しているかは見ていれば分かりますが、プロとして仕事を引き受けた以上は、腹をくくってやるしかないんです。最大限、全力を尽くして。
――ヒット曲を一緒に創り上げたアーティストとは、プライベートでもお付き合いがあるのでしょうか。
よくその質問をされて困るのですが、僕は、アーティスト、歌手、タレントさんと親交を深めることはあまりなかったですね。ヒット曲を作っても、その後一切接触がないこともめずらしくありません。同じ作曲家でも社交性のある人はいるかもしれませんが、僕はどちらかというと芸能人よりもスタッフとのほうが仲良しになることが多かった。
――意外ですね。プライベートでもアーティストとお酒を酌み交わしているようなイメージがありました。
これにはちょっとした裏事情というか……僕らはいつも宿題を抱えていますから、直帰するケースの方が多いのです。なので親交の場は再度スケジュールを取ることになるんですよ。時々アーティストから直に曲を書いてくださいと言われることもあります。光栄なんですが、でもそれは、そのアーティストの周囲にいるスタッフの意思を無視することになる。スタッフはそのアーティストのプロデュースをどうするべきか、次の歌のコンセプトはどうしようか、誰に作曲を頼もうか、いつも悩んでいる。なのに、アーティストと作曲家がスタッフを通り越して、次の歌を決めてしまったら、スタッフのビジョンや計画を台なしにしかねません。