東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
この記事の写真をすべて見る

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

*  *  *

ツイッターが終わった。青い鳥が消えた。

 イーロン・マスク氏は7月23日にツイッターの名称廃止を突然発表。翌日にはロゴを黒いXの文字に変更、サンフランシスコにある本社ビルの看板も外すなど改革を進めた。今後ツイッターは「X」という名称になり、決済機能をもつ万能サービスに生まれ変わるという。

 Xはマスク氏が1999年に創業した社名で、強い思い入れがある。氏は当時から金融に関心をもっていた。ペイパルとの競争に負け一旦撤退したが、3億人のアクティブユーザーを取り込んで捲土重来を期すつもりなのだろう。氏は気紛れで知られるが今回は本気だ。もはや昔のツイッターに戻ることはあるまい。

 マスク氏が運営会社を買収したのは昨年10月。以来朝令暮改が続き、公共性の低下が指摘されてきた。今回の名称変更も事前告知は一切なく、混乱が広がった。最近は障害も多い。新方針の成否は見通せないが、また信頼を失ったのは確かだ。行政や企業の窓口として使うのは難しくなる。事業に影響が出る人も多いだろう。

 それ以上に残念なのは、この変更でひとつの文化が消滅しそうなことだ。ツイッターのサービス開始は2006年。それから17年、他のSNSと異なる交流文化を育んできた。特に日本では「陰キャ」と呼ばれる内向的な消費者に好まれ、アニメやゲームなどと近い独自の若者文化を育んできた。その生態系がまるごと他のサービスに移動することは考えられない。

 とはいえマスク氏を責めるのも筋違いだ。ツイッターは公共のサービスではない。私企業の運営だ。所有者が変えたいと思えば変わる。それはみな知っていたが、目を逸らして都合よく使い続けてきた。そのツケが来たにすぎない。現代社会は無料のネットサービスに依存しすぎている。今後は考え直す必要があろう。

 筆者は2007年10月からツイッターを使っている。投稿数は15万に及び、思い出が無数にある。ここでしかありえない出会いもあった。ずいぶんと楽しませてもらった。ありがとう、青い鳥。

◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2023年8月7日号