応援指導班の露木あみさん(撮影/吉崎洋夫)
応援指導班の露木あみさん(撮影/吉崎洋夫)

 応援団が引き継いできた伝統についてはこう語る。

「伝統的にやっているからといってその本質的な意味や目的を何も考えずにやるということはないです。『失礼します』のあいさつひとつとっても、なぜそれをやるのか、意味を考えている。理由が見いだせないなら、やる意味はありません。無用なルールは見直していく、と監督から指導されています」

 応援指導班で女子学生はどういった活動をしているのか。

 露木あみさん(文学部3年)は入団する際、監督から「性差があるので区別することはあっても、差別はしない。着替えの場所や体調が悪いときは配慮する」と言われた。そして、練習については「男性と同じように扱う。女性だからといって軽くすることはない」と言われたという。

 体力づくりのランニングや筋力トレーニングは男性と同じメニューをこなす。六大学野球のリーグ戦が行われているときは、対戦相手の大学までランニングをすることがある。露木さんはランニングが苦手で、集団から遅れることがたびたびあるというが、

「遅れたらみんな戻ってきて、背中を押して走ってくれる。先輩たちがよく言っているのは『俺たちは陸上部じゃない。一緒に走ることが目標だ』ということです。『応援の精神』でお互いに声をかけて、盛り上げて目標に向けて頑張っていく。私は遅いぶん、声を出すようにしている」

 活動の一つひとつにしっかりと“本質的な意味”を見いだしているようだ。菅谷監督はこう説明する。

「応援団では誰かがくじけそうになったときに周りが支えて、目線を前に向けさせるのが大切です。それこそ応援団の精神で、最も大切なこと。社会でも通用する本質的な価値観だと思います。だから、シゴキのようなことはしません。そもそも仲間を鼓舞できないようであれば、アスリートを鼓舞することなんてできない。ここに性別は関係ありません」

 応援団内には女性が入ったことで武骨な雰囲気が薄れたという声もあるという。古き良きバンカラはなくなりつつあるのだろうか。監督に尋ねると、こう答えた。

かつての明治大応援団の風景。リーゼントにサングラス姿が時代を物語る(画像提供=明治大学応援団)
かつての明治大応援団の風景。リーゼントにサングラス姿が時代を物語る(画像提供=明治大学応援団)

「バンカラの精神は今も生きています。バンカラというと形から入るような人がいるが、上っ面だけで、中身がスカスカでは意味がない。何をやるにしても本質的に何が大事なのか、周りに流されることなく、それを見極めるのが本当のバンカラのあり方です。学生には耳にタコができるくらい『本質を大事にしなさい』と伝えている。そしてそれは応援団の精神でもあります」

 時代が令和になっても、明治大には、本質を極めた“バンカラ精神”が残っている。

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

著者プロフィールを見る
吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

吉崎洋夫の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
なかなか始められない”英語”学習。まずは形から入るのもアリ!?