警察の事件捜査をモチーフにした小説は、場面場面のきめ細かい描写が生命線ではないだろうか。本書『連写 TOKAGE(トカゲ)3――特殊遊撃捜査隊』を一読すると、ことのほかそう感じる。タイトルの「連写」は物語における重要なキーワードに位置付けられている。一方、捜査で描かれるそれぞれの情景が、題名どおり読む側の瞼に次々と活写され、つい引き込まれていく。本書は、まさに警察小説の傑作『TOKAGE』シリーズの第3弾である。
主人公は、警視庁刑事部捜査第一課の特殊犯捜査係、通称SITに所属する上野数馬と白石涼子のコンビだ。2人は特殊犯捜査係の刑事という顔と同時に、本の題名にもなっている非公然のバイク部隊「トカゲ」のメンバーでもある。
実際、警察組織には、正式な部署として公表されていないこうした隠密部隊が存在してきた。トカゲは、バイク部隊といっても白バイ隊員などではない。警備・公安部門でいうところの情報収集係「チヨダ」「サクラ」「ゼロ」と似たような影の存在といえる。そのメンバーたちはSITだけでなく、ふだんは刑事部のいくつかの部署にバラバラに所属し、誘拐やテロなどの特殊事件が起きると、招集がかかる。犯人を追尾するバイクの運転技能に優れているのはむろん、刑事としての高い捜査テクニックも要求される特殊任務に就く。
事件現場の聞き込みや捜査会議の模様、関係者に対する事情聴取……。刑事たちの捜査現場について、いかにリアリティをもって描けるか。警察小説の難しいところはそこだろう。ましてトカゲという隠密部隊が主人公だけに、過去の資料も乏しい。しかし、作者は『隠蔽捜査』シリーズをはじめ、さすがに多くの警察小説を手がけてきただけあって、その心配がまるでない。特殊部隊の生態が真に迫ってくる。とりわけ物語において、捜査を取り巻く状況や現場のリアリティという点で、効果的に配されているのが、新聞記者たちの動きだ。
シリーズ3作目となる本書では、東京都内で起きた連続コンビニ強盗事件がバイクを使った犯行だったことから、トカゲ部隊の出番となる。その捜査現場で、シリーズ第1作である銀行員の身代金誘拐事件から登場している東日新報の記者、湯浅武彦たちが一役買う。
ベテラン記者の湯浅が、トカゲメンバーの中でも美人で頭の切れる白石涼子に食らいつき、あの手この手で捜査状況を聞きだそうとする。特ダネを追いかける報道記者と捜査情報を秘匿しながら、記者を利用しようとする刑事との攻防が、手に取るように伝わってくる。その辣腕記者に対し、努めて冷静に対応する優秀な刑事との神経戦などは実におもしろいが、警察取材に触れた経験のある者としては、細かいやりとりや心の内をよくぞここまでリアルに描けるものだと舌を巻く。
また、上野や涼子たちトカゲの捜査と新聞記者としての湯浅の取材状況が交互に描かれ、物語に厚みを加えていく。
トカゲをはじめとする捜査本部の捜査員たちは、続けざまに3件も起きたコンビニ強盗の犯人をあぶりだすべく、街中に設置された防犯カメラの映像を解析。オフロードバイクに乗ったライダースーツの犯人の行動範囲を予測し、その映像からトカゲ部隊が聞き込みやパトロールを繰り返す。防犯カメラから犯人像を追うそのあたりも、現実におこなわれている捜査と重なり合う。
しかし、捜査本部の見込み違いから、犯人の身元割り出しに手間取ってしまう。やがて捜査は行き詰まったまま、事件はぷっつりと沙汰やみとなる。捜査が進まない中、時々刻々と時間だけが経過していく捜査員の焦りにも臨場感がある。本書は随所に不気味でスリリングな展開がちりばめられ、読む側はそのせいでついつい文字を追い、ページをめくってしまう。
さて犯行グループの真の狙いはどこにあるのか。事件のクライマックスは予想外の展開を見せ、事態が大きく動く。
作者は事件解明の謎を解く布石を物語の中盤から何度も打っている。それらをここで書いてしまうと面白みが半減するので控えるが、ヒントとしてタイトルになっている「連写」の意味についてだけ触れよう。
主人公の上野数馬はトカゲのキャリアは浅いが、並はずれた観察力と記憶力という特殊技能がある。まさしくカメラの連写のように、その目で見たものを脳裏に保存することができるのである。捜査が行き詰まったかに思える物語の最終盤になって、SITの責任者がその特殊能力に望みを託す。
一挙に読んでしまう待望のシリーズ第3弾。読後感も非常に痛快な秀作である。