どうも大企業の社長というと、へんな新興宗教にはまって社員を神社詣でさせるとか、そういう偏見があったので、新宗教に詳しい島田裕巳がそういうのを斬りまくってくれるのだとばかり思ったが、そんなことはなかった。トヨタ自動車や松下電器産業やユニクロなど本書に登場する世界の大企業は、さすがにそんなへんなことはないようなのであった。
 ここで言われているのは、宗教といっても、ほとんど「企業の理念」みたいなものである。サントリーの創業者である鳥井信治郎はたいへん信心深かったという話があり、以前、そこの長男のヨメさんになった小林一三の娘がインタビューで「結婚したら毎日お経あげさせられて写経させられて」という生活のタイヘンさを語っていたのを思い出した。それはどちらかといえば「昔ながらの信心深いお爺さん」的な行動で、商売を大きくするために宗教を利用するのとは違う。きちんとした生活をしてきちんとした仕事をする、という性格が、きちんと身近にある神仏を祀る、という行動になっただけにしか見えない。他の社長さんたちの“信仰”も、期待したようなトンデモナイものはなく、それが「こう、単に信心深いみたいな信仰心だけが出てくると、“きちんとした信心深さ”が成功につながるみたいな結論になってイヤだな」と思わせられる。そこまで深読みすることもないのだろうが。
 私が心をひかれた唯一の社長がダイエーの中内功(いさお)で、この本の中になぜこの人が選ばれたのかさっぱりわからなかった。「神様より生きてる人間。そのために商売商売」という人である。そして、計算がぜんぜんできない人だった、という話も書いてあって、私などは「あの中内さんが計算できない男だったとは!」と感動し、でも計算できなくても社長じゃんかと鼻白むも、計算ができない人だったんで最後は私財ぜんぶなくすハメになったなどと聞くと、「社長には珍しい一貫した生き方」だと讃える気持ちになった。

週刊朝日 2013年3月22日号