ジャズを知れば洒落者になれる気がしてジャズ関連本をいくら読んでもジャズはわからない。頭に入ってこない。マイルスの本なんか何冊読んだことか。全部ムダ。でも、この本は登場人物がなじみ深い日本人なので、内容がスルスル入ってくる。
大正初期にアメリカでジャズバンドが登場して数年で、日本人によるジャズが日本で演奏されたというのには驚いたし、昔から謎だった「秋吉敏子」という人もどんな来歴なのかやっとわかった。ナベサダという人は、気がついた時からもうジャズの大物であったが、彼がいかにしてそういう立場になったのかもわかった。その他たくさんの人が、日本のジャズ界出身だったと知って驚いた。原信夫とか小野満って、歌謡曲のバックバンドの人(ダン池田みたいな)かと思ってたら、ジャズミュージシャンなのか。クレージーキャッツやフランキー堺もジャズバンドから出てきた。
日本の芸能界における肥沃な農園みたいなものか、ジャズ界は。芸能界だけでなく、後のノイズとかパンクとかエレクトロニカの分野にも、ジャズの人がたくさんいたのだった。何にも知りませんでした。
というような知識を得られるのも面白いが、もっと面白いのは、著者の相倉さんがプレイヤーでもないのに、戦後のジャズシーンができあがる渦中で言いたいことを言って、やりたいことをやっていた、というたいへんにうらやましい立場であったことだ。私が当時ジャズのファンだったら、相倉さんをものすごく嫉妬したろうなあ。何者やねん、あいつばっかり、と。
しかし、そういう立場の人だからこそ書ける生々しい話が満載で、これもジャズファンが見れば一種の自慢話で腹立ちモノなんだろうけれど、私はジャズを好きになりたいだけの者なので楽しく読めていいのである。でも問題は、この本を読んだらある種の満足をしてしまい、ジャズを聴く気持ちがなくなってしまうことだ。いつかジャズがわかる日は来るのだろうか。
週刊朝日 2013年2月8日号