池上:一般的には「第二次大戦はナチス・ドイツの侵略によって始まった」とされていますが、実は「ソ連が大戦の引き金を引いた」ともいえます。スターリンはヒトラーとの密約でポーランドを分割したり、ルーマニアの東部を取ってモルダビアというソ連の共和国にしたりした。現在のモルドバですね。ソ連はフィンランドにも攻め込んでいます(冬戦争)。その理由は「ドイツが力をつけてきたら大変だから、我が国を守るためにフィンランドの一部に軍を駐留させろ、割譲させろ」というもの。ところが簡単に勝てると高をくくって侵攻したら、逆にフィンランドからえらい目に遭わされました。その苦戦ぶりを見てドイツは、ソ連って意外に弱いんじゃないかと判断した。それもドイツがソ連を攻撃する一つのきっかけになったわけです。こう考えると、第二次世界大戦はドイツとソ連が始めた戦争といえますよね。加えて、第二次世界大戦でのソ連の振る舞いを追っていくと、あの国は実に臆病なんだということがわかります。自分の国の周りに言うことを聞く国がないと不安で不安でしょうがない。そんな構造が見えてきます。今、ロシアはウクライナを自分のものだと言い、NATO(北大西洋条約機構)の拡大に怯えています。あの頃と実は同じ構造だから、前時代的な侵攻に踏み切ったのではないでしょうか。
保阪:ナチス・ドイツのポーランド侵攻の9日前に独ソ不可侵条約が結ばれています。この条約に秘密協定があったことがゴルバチョフ政権の時に明らかになりました。ソ連はポーランド分割の密約についても認めた。また「カチンの森の虐殺」について、ソ連は戦後、ずっとナチスの仕業だとしらを切っていました。けれども、ゴルバチョフがきちんと調査して、ポーランドに対して正式に謝罪したわけです。以来、歴史の見方が根本的にがらっと変わったんですね。現在のヨーロッパ各国の歴史解釈では、第二次世界大戦はスターリンとヒトラーの野合で始まったというのが常識になっています。