円安が急激に進んだことで、日本の国益が危ぶまれる事態も起きているという。北米の在外公館に勤める外交官は言う。
「海外の企業幹部と夜に食事をすると、今の世界的な物価高では一人5万円ぐらいかかることもあります。でも、日本の一般的な外交官で、一人5万円の経費が出る人はほとんどいません。参加を断れば、人脈構築や情報収集に支障が出て国益を失する。苦しくても自腹で払うしかありません。外国人におごってもらうと賄賂を受け取っていると思われてしまうからです。この出費に悩んでいる外交官は少なくありません」
世界的な物価高は、日本の経済力の弱さを露呈することになった。世界一物価が高いスイスでは、マクドナルドのビックマックセットが2000円。今や日本の外交官は、現地の食事にも苦労するようになってしまった。
外交官の給料は、民間に比べて低いことは以前から指摘されてきた。たとえば、家族と一緒に在外公館に赴任した場合、子どもはインターナショナルスクールに通わせることが一般的だ。民間企業であれば、全額が企業から支給されることもあるが、外務省職員は各国で定められた「子女教育手当」を超える金額は支給されない。送迎のバスなどは自己負担だ。「給料が激減したので、子どもを日本に帰国させることを考えている人もいる」(前出の在アジアの外交官)という。
在外公館職員の生活費について、林芳正外相は10月21日に「職責に応じて能力を十分に発揮することができるよう、適切な水準の手当を支給することが重要」との見解を示した。外交に必要な経費については対応が進みつつあるものの、職員の給与に関する予算は年度ごとに決定しているので、早急な改善は見込めない状況だ。急激な為替の変動に手当を調整する制度もあるが、「ここまで急激な円安が進むと対応が難しい」(外務省担当者)という。前出の北米駐在の外交官は、「日本の影響力の弱さを痛感する。この円安は日本経済の弱さを表したもので、すぐに改善するとは思えない」と嘆く。
政府・与党の中には「在外公館職員の給料を上げるべきだ」との声も出ているが、公務員の給料を上げると国民から批判の声が出る可能性があるため、大きな動きになっていない。結果的に、現地の外交官たちの自己犠牲で日本外交が成り立っている状態だ。ある外交官はこう話す。
「ある国の外交官は自分より現地採用の秘書の方が給料が高いと嘆いていました。日本のために仕事をしたいけど、政府の対応は冷たい。十分な生活費のない外交官は中国やロシアなどからターゲットにされかねません」
国を愛することを誇りに思う外交官であっても、その愛の営みを続けていくには、先立つものが必要なのである。(西岡千史)