2007年から約12年間、アエラでコラムを連載していたぐっちーさんが亡くなって約5カ月。トランプ大統領誕生から、亡くなる直前に書かれた絶筆までの177本を完全収録した遺作、『ぐっちーさんが遺した日本経済への最終提言177』が2月21日に発売された。そんな177本から、編集者が真っ先に読んでほしいと思った「名作」トップ10を厳選。その中から8位「100万円を運用しても、『鴨葱』になるだけだ」を紹介する。

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 例の金融庁の金融審議会の報告書問題。95歳まで生きるには夫婦で2千万円必要、というのが物議を醸しました、一方で60歳の人の25%が、貯金額100万円以下だという報道もありました。

 ぐっちーが1960年生まれだから、これはまさに同世代の話です。60歳にもなって2千万円必要と言われ、じっと手を見て100万円もない……というのはあまりにも哀しい。石川啄木も涙しそうな話じゃないですか。

 この世代に預金がない理由はただ一つ、バブル期を20代後半で迎え、まだ微塵も終身雇用が疑われていない時期に、最高35年ローンでがっつり家を買ったことに尽きるでしょう。ぐっちーは日本で家を買おうと思わなかったので、おかげさまで貯金は(これだけ酷い野放図な生活をしていたのに)そこそこ残っている。唯一そこの違いです。

 残ったのは半値以下になり流動性もなくなった辺鄙な郊外の自宅とローンだけという悲惨な結末。自己責任なんだから仕方ないという声もありますが、僕はこれこそ金融犯罪に近いと思っています。30年後の不動産価値なんて全くわからないはずなのに「不動産価格は絶対上がります、ローンの支払いも大丈夫です!」なんて言って貸す方がどうかしている。あまりにもモラルを逸脱していると思う。

 危惧しているのが、この金融犯罪が繰り返されること。すでに2千万円という数字は独り歩きを始め、各金融機関とも投資商品の勧誘にすごい力を入れ始めた。早く運用しないと足りませんよ。60歳で100万円!? 早く早く!という悪魔の囁きが聞こえます。

 
 仮に預金が100万円もないのなら、絶対に運用なんてしてはいけません!! 何が良くて何が悪いということはありません。全部だめです!

 運用だけで100万円が2千万円になるわけがないのです。100万円が300万円でもとんでもないレバレッジがかかっており、そんな運用商品に手を出したら即死です。外貨建て変額保険、投信、発展途上国向けの通貨や債券、みんな紙切れです。絶対に買ってはいけません。

 60歳で貯金のない人がまずやること。自宅を売却してローンをゼロにする。すると毎月のキャッシュフローが確保でき、貯金をする余資が生まれる。仮に月5万円貯金を始めれば5年で300万円。70歳までには600万円が確保できる。精神的に大分余裕を持てるし、今のような世界中資産のすっ高値みたいな状況からは抜け出している可能性だってあり、そこで安心な投資を検討すればいいのだ。

 まずは300万円を手元に置くことから始めよう。運用を考えるのはその先の話で、100万円の貯金もない人が運用なんて絶対に考えてはいけない。そういう人が「鴨葱」なんです! ご注意を!!

※AERA 2019年7月1日号