ただでさえ与党は、昨年秋に起きた曹国(チョグク)法相(当時)を巡るスキャンダルや18年6月の蔚山(ウルサン)市長選に対する大統領府の介入疑惑、経済政策への不評などで逆風が吹き続けている。コロナショックはこの逆風を更に強める可能性がある。
韓国国会(定数300)は2月12日現在、与党、共に民主党が129、第1野党の自由韓国党が107などとなっているが、与党内には敗北への危機感が徐々に高まっている。実際、2月半ばには国会の汝矣島周辺で「自由韓国党が168議席を獲得して圧勝」という怪文書まがいの世論調査結果が出回り、政界関係者の耳目を引いた。
この状況は日本とも無関係ではない。2月12日、韓国外務省は記者団に対し、「昨年11月22日合意の趣旨に沿って、日本政府は輸出規制措置を早期に撤回するよう改めて求める。いつでも日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)を終了できるという前提のもとに、終了通告の効力を停止している」などとする韓国政府の立場を改めて説明した。これは、同日付の韓国紙・中央日報が、韓国大統領府内でGSOMIA破棄論が強まっていると伝えたことを受けたものだ。
複数の日韓関係筋によれば、総選挙に向けた好材料探しに躍起の大統領府は、総選挙までに日本の輸出規制措置の撤回を狙っている。ただ、2月6日にソウルであった日韓外務省局長級協議は原則論の応酬に終わり、全く進展がなかった。こうした状況に焦った大統領府の急進派が「措置撤回が無理なら、GSOMIAも破棄してしまえ」と騒ぎ始めているのだという。
もちろん、これはまだ多数意見ではない。しかし、日韓両政府がコロナ問題で忙しいなか、徴用工判決問題への対応もおざなりになりがちだという。場合によっては、総選挙前に差し押さえられた日本企業の韓国資産の現金化が実施される可能性もある。そうなれば日本政府の報復措置は必至で、GSOMIA破棄論も浮上するだろう。
日韓関係は再び急展開する兆しが見えてきた。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)
※AERA 2020年2月24日号