地域別でみると、欧州との関わりが強く、独立志向を持つスコットランド、アイルランドと地続きで国境を接する北アイルランドが残留派。ウェールズと、ロンドンを除くイングランドは離脱派が多数を占める。民意の妥協点を探るのは、複雑な連立方程式の解を導くより難しい。

 民意が分かれるなか、今回の選挙の行方は「過去数十年の総選挙のなかで最も予測しにくい」(英ガーディアン紙)とみられている。

 そのなかで、今後の展開を左右しそうなのが、明確なEU残留を掲げる自由民主党と、強硬な離脱を掲げる離脱党の両党、さらには、環境保護を重視する「緑の党」などの動きだ。小選挙区制の総選挙で、こうした政党がどこまで票と議席を伸ばすかは未知数だが、二大政党が変質するなか、行き先を失った有権者らの受け皿役を目指す。

 直近の複数の世論調査では保守党(支持率36~42%)、労働党(同25~31%)に対し、自由民主党(同14~17%)、離脱党(同7~11%)とも一定の支持率を保つ。緑の党の支持率は2~5%だ。

 選挙の行方は、保守党が単独過半数を確保できるかどうかが焦点だ。事前の世論調査では保守党が有利だが、前回17年の総選挙でも、事前には有利だった保守党が過半数割れとなるなど、有権者の動向がつかみにくくなっている。

 保守党が過半数割れした場合、連立相手が必要になるが、かつて連立を組んだ自由民主党は、EU残留を掲げており、ジョンソン政権に加わる可能性は低い。逆に離脱党と組めば、保守党が現状よりさらに強硬な路線を迫られることも予想される。どの政党とも組めず、過半数を確保できなければ、議会は機能不全に陥る。

 総選挙後に保守党政権が過半数を確保し、EUからの離脱が実現したとしても、そのあと政治が安定する保証はない。

 離脱に踏み切れば、残留派の不満が噴き出し、今度はスコットランドなどで独立の動きが再燃するだろう。それは英連合王国(ユナイテッド・キングダム)の分裂というさらなる混乱につながりかねない。ブレグジットがもたらした英国史上最大の政治危機を抑え込む手立てはまだ見えてこない。(朝日新聞東京本社編集局長補佐(前ヨーロッパ総局長)・石合力)

AERA 2019年11月18日号より抜粋