経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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財務省いわく、「事業者に課される消費税相当額は、コストとして販売価格に織り込まれ、最終的には消費者が負担することが予定されています」(『もっと知りたい税のこと』)
この予定は、誰の予定か。なぜ予定なのか。この予定には、どの程度確定性があるのか。消費税10%時代がそこまで迫る中で、この予定の意味するところが何だかとても気になってきた。
この予定は事業者の予定だろうか。そうだとすれば、この予定にあまり確定性があるとは思われない。事業者側がそのつもりでも、消費者が値切り交渉してくるかもしれない。その場合にはどうなるか。売り手市場か買い手市場かによって、事業者の予定が狂うこともありそうだ。
この予定は財務省の予定だろうか。もしそうだとすれば、この予定に法的根拠はあるのだろうか。この予定を「立法者の予定」だとする考え方もあるようだ。そういうことかとも思える。ただ、日本における消費課税の根拠法である消費税法には、この予定に関する言及がない。どうも、この予定はミステリアスな予定だ。
このミステリーを解くべく、EUがどんな解説をしているかをみてみた。なぜなら、日本の消費税は課税方式として付加価値税方式を取っている。付加価値税といえば、何といってもEUが年季が入っている。大先輩のお言葉やいかに。
というわけで、付加価値税に関する欧州委員会のサイトをみると、次のように書かれていた。「付加価値税は消費税である。なぜなら、それを最終的に負担するのは消費者である。付加価値税はビジネスに対する課税ではない」。実にすっきりしている。この書きぶりなら、付加価値税が消費者に転嫁されることは予定ではない。前提である。
消費者に転嫁されることが前提ではなく単なる予定なのであれば、日本の付加価値税は果たして消費税だといえるのか。もしも、お客さんに逃げられることを恐れるあまりに、小売店が消費税分を販売価格に上乗せしなかったら、消費税は間接税ではなくて、小売店の売り上げに対する直接税になるのか。結局、ミステリーは深まるばかりだ。追求し続けよう。
※AERA 2019年10月7日号