


世界最大の精子バンクのクリオス・インターナショナルが日本に上陸した。子どもを望む多くの人たちにとっては希望の星だが、日本人による精子提供が難しい現実もある。ジャーナリスト・大野和基氏がその背景に迫る。AERA 2019年9月16日号から。
【写真】ドナーの精子は、-196度で凍結され、バンクに保存されている
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近年、出自を知る権利が、オーストラリアやスウェーデンなど先進国で法律として認められはじめている。日本でもこうした声が大きくなったため、ドナーの確保が難しくなり、慶應大が非配偶者間の提供精子による人工授精(AID)の新規患者受け入れを中止した。
「匿名精子と、値段は高くなるが非匿名精子の2種類を用意するのが現実的です」(スコウ氏)
実際、すでにクリオスでは匿名・非匿名を明示している。
だが、スコウ氏はそれ以前に、子どもに告知する重要性もクローズアップされるべきだという。
「提供精子で子どもが生まれた場合、その事実を小さいころから教えるべきであるということは、いまや世界中の専門家の間でコンセンサスになっています。しかし、思春期以降に教えると、子どもはアイデンティティークライシスに陥ってしまう。行き着くところは『親とは誰か』ということです」(同)
スコウ氏が指摘するのは、日本の法の未整備だ。AIDに関して法的な親を定める法もガイドラインも現時点では存在しない。
「精子バンクを違法にすると、必要としている人はグレーマーケットに依存します。ネットで検索すると自分の精子を提供したがっている男性はいくらでもいます。何の検査もしないので、感染症や遺伝病のリスクがあり、非常に危険です」(同)
クリオスに日本人の血の入っているドナーはまだそれほど多くない。日本人ドナーはまだいない。
「日本でも、精子提供した男性が法的な父親になることはない、扶養義務は一切発生しないといった法律を早急に作らないと、ドナーになる人はなかなか出てきません」(同)
精子バンクを一から作ると、機能するまで数十年かかると予想される。
「ドナーの保護や、AIDで子どもが生まれたときの法的な親の定義が、日本でも法律上きちんと定められれば、現行のシステムを日本にそのまま持ち込むことができます。半年以内に検査したクリーンな精子を提供でき、3年以内に機能できます」(同)
迅速に法整備を行う時期にきている。(ジャーナリスト・大野和基)
※週刊朝日 2019年9月16日号より抜粋

