経済産業省が「空飛ぶクルマ」の開発に力を入れている。背景には限界集落への対応や災害時の物資供給など、昨今抱えている社会問題があるという。日本だけでなく、世界で開発が進められている「空飛ぶクルマ」は、実用化までにどのくらいの年月がかかるのだろうか。
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スクリーンに、ドラえもんのタケコプターのイラストが映し出されると、張り詰めていた会場の雰囲気がふっと緩んだ。
「空飛ぶクルマを一言でいうと、ドラえもんのタケコプターみたいなものだと思っています」
4月23日に都内で開かれた日本航空協会主催の講演会。経済産業省の「空飛ぶクルマプロジェクト」リーダーで、航空機武器宇宙産業課総括課長補佐の海老原史明さん(34)は、こう説明を続けた。
「空路で移動するにはまず空港へ行き、滑走路から航空機で飛び立つのが一般的ですよね。それがタケコプターのように、個人が点から点に移動できる。そんな手軽な空の利用が夢ではなくなってきています」
海老原さんはさらに、「あえて」と前置きし、漢字15字で「空飛ぶクルマ」を定義した。
「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」
この定義を細かく見れば空飛ぶクルマとは何かがよくわかる。
まず「電動」。モーターで動くためエンジンよりも静かで環境への負荷が小さく、部品が少ないので軽く整備も簡単。そして自動操縦との親和性が高い。「垂直離着陸型」は滑走路が不要で、都市部の狭いスペースも有効活用できる。「無操縦者」だから操縦士の養成費がかからず客席も広くキープできるため、運航コストの圧縮に直結する。実質的には「航空機」だが、「個人が気軽に使える乗り物」という意味合いで、あえて「空飛ぶクルマ」と表現している、というわけだ。
経産省と国土交通省が中心になって立ち上げた官民協議会が昨年末に作成したロードマップによると、2019年内に試験飛行や実証実験に着手し、23年を目標に事業をスタートさせる。都市部での人の移動に本格活用するのは、30年代と見込む。海老原さんはロードマップをこう位置付ける。
「利活用の目標部分は民間事業者が掲げるビジョンを示したものです。制度や体制の部分は、民間のビジネス展開を阻害することのないよう、国が必要な環境整備を迅速、的確に行っていく決意表明でもあります」
大量に普及すれば、1機の販売価格は2千万円以下となり、タクシーと同程度の運賃での「乗車」が可能と見通す。