動物写真家にしていまや世界的な「猫写真家」、岩合光昭さんが初監督した「ねことじいちゃん」。主演の落語家、立川志の輔さん、主演猫のベーコンを交え、猫にメロメロなおじさんたちの撮影話。
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日本のとある島で暮らす70歳の大吉(立川志の輔)と飼い猫のタマ(ベーコン)。映画にはふたりの日々と島の人々の暮らしが、ほのぼの優しいタッチで描かれる。撮影ですっかり仲良くなったふたり。取材中もベーコンは師匠の前でのんびりくつろいでいる。
岩合光昭:ここまで動じない猫は珍しいでしょう? 100匹以上の猫をオーディションしたんですが、そこでベーコンに出会ったときから「この猫は絶対に大丈夫だ」って信頼できた。なにより志の輔師匠との息がぴったりでした。
立川志の輔:僕は猫はほぼ初心者だったから、今回監督に教わってゼロから付き合い始めたんです。タマは「膝の上でおとなしくしててくれ」というと、その通りにしてくれるんですよ。
――と、目尻を下げてベーコンをなでる師匠。が、やはり映画は初主演。戸惑いもあった。
志の輔:僕は人前に身をさらすと、なにかオチがないと落ち着かないんですよ。でも台本上、笑うところが一個もないんです。1時間40分、人前に出て「笑わなくって、大丈夫なんだろうか」って猛烈に心配になった。
岩合:大丈夫ですよ、って。
志の輔:そう、できあがってみて大丈夫なんだなあとわかったんですが。改めて落語家ってビョーキだなと思いました。
岩合:僕も監督って大変だなあとわかりました。美術さんに「お膳の上の、箸の置き場所はどうしたらいいですか?」と言われて「あ、監督ってそんなことも考えなきゃいけないんだ」って。
志の輔:当たり前ですよ!(笑)それに監督は猫とのコミュニケーションは抜群でしたけど、人とは、ね……。
岩合:ははは。
志の輔:監督の指示は、1度は聞きなおさないと理解できないことが多かった!
岩合:つい抽象化してしゃべっちゃうから、俳優さんたちにも「よくわかりません」って何度も言われちゃいました。師匠は「監督、頼むから宇宙語でしゃべるのはやめてくれ」。
志の輔:「猫の気持ちとしてはこうなので、それに沿うように演じてください」と言われてもねえ。でもキャストもスタッフもみんな猫が好きで「岩合さんの映画に協力したい!」という思いでつながっていた。