岩合:主要キャストが初めて集まるシーンのあと、大声で「OK!」って言ったら、柴咲コウさんが「監督、今、猫しか見てなかったですよね……?」って(笑)。みなさん本当に猫の気持ちや動きを考えて演技してくださったんです。島の猫を含めて35匹が登場しますからね。
――どのシーンにも猫がいる、のうたい文句にうそはない。同時に映画には老いや過疎化、地域のなかでの人のつながりといった現代的なテーマも内包されている。
岩合:たしかにいろいろな問題を提起はしているんです。ですが、それを問題として描くのはいやだった。僕は明るい映画を作りたかったんです。現実にはいろんな問題があるけれど、それは表面化せず淡々と撮影する。「猫と人がこんなふうに暮らし合える、こんな島があったらいいな」と思ってもらえたらいい。ちょっとファンタジーのような感じで作ったんです。
志の輔:できあがった映画で本当にそう感じましたね。猫も人間も同じで、どちらが上下、とかではなく、暮らしてみると、こんなにステキな世界があるんだよ、と。オチもスペクタクルもないんだけど、なにかこう、ぽおっとあったかくなるような。ああ、映画ってこういう芸術なんだ、と思いました。
――撮影で印象深かった場面もそれぞれだ。
志の輔:田中裕子さんが僕の奥さん役なんです。たったワンシーンだけど、共演できたことはやはり感激でしたね。「本番」となったとき、それまでの普段の顔から「奥さん」になる瞬間を間近に見て、感動しました。田中さんは本当に猫好きで、最高で12匹飼われていたそうです。
岩合:師匠の胸の上でタマが寝るシーンが撮れたときには感動しました。あれは「やってくれ」っていってもなかなかできないですよ。
志の輔:ほら、猫しか見ていないでしょ?(笑)そしてこんな素敵な映画ができあがるんですから。僕、監督も一度やってみたいと思ってしまいましたよ。第2弾「ねことじいちゃんパート2 タマ、パリへ行く」とかがあったら、岩合さんに主演してもらって、僕が監督をやろうかなと。
岩合:僕が厳しく指導されそうですね。ハハハ……。
(ライター・中村千晶)
※AERA 2019年2月25日号