アマゾンが2017年9月に打ち出した「第2本社」構想に対し、全米で238もの都市や地域が誘致を競った。高給で多数の雇用を約束したからだ。だが、疑問の声が上がっているのも事実だ。
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米首都ワシントンのホワイトハウスから車でわずか6分。ハイウェーを降りてすぐの場所には、首都への通勤者を当て込んだアパート群がひろがっている。さらに、ロナルド・レーガン空港はすぐ隣だ。
交通の便が良すぎるぐらいのこの一角は、米アマゾンが「第2本社」として、2018年11月13日に発表したばかりの場所だった。
「アマゾンが来てくれるのはいいけれど、物価とか家賃とかが上がってしまうのは嫌よね」
12月半ば、私が現地を訪れると、近所に住む40代の女性がそう話した。付近一帯で、アマゾンが借り上げる予定だというビルや、新社屋を建てるという場所を歩いてみた。すると、一帯にわずかしかない、空きビルや古い工場の跡地などは、どこも数年後には根こそぎ「アマゾン」になるのだという。
50州ある米国は、広大な国だ。あまたある候補地からアマゾンが選んだのは、すでに混雑した、大統領のお膝元だった。人気スポットにアマゾンが割り込み、空きスペースをかき集めて、大きな企業城下町へと変えようとしている現実を目の当たりにした。
アマゾンが「第2本社」構想を打ち出したのは、17年9月のことだった。手狭になったシアトルの本社のほかに、米国内で5万人を、それも平均で年収10万ドル(約1130万円)超の給与で雇用する、第2の本社をつくるという。「各都市からの立候補を受け付けます」という発表に、米国の、特に中部の郡部は沸き立った。
米国の家計年収の中位は17年で約6万1千ドル。これを6割上回る高年収の雇用が、一気に5万人も増えるからだ。立候補した都市や地域は238に上り、各地は激しい誘致合戦を繰り広げてきた。
1年余の選考過程を経て選ばれたのは、結局、ニューヨーク市とワシントン郊外の2カ所だった。アマゾンは、当初は1カ所の「第2本社」で5万人を雇うとしていたが、これを二つに分け、それぞれの都市で2万5千人ずつ雇うことにしたのだ。