

今年の夏の甲子園、フィーバーを巻き起こした金足農業を破り、優勝を果たした大阪桐蔭。その支柱ともいえる根尾昂の、投手・野手としての、そして人間としての魅力とは。
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4校の同時優勝とはいえ、大阪桐蔭が福井国体・高校野球硬式の部を制し、8冠目を手にした。この1年で敗れたのは昨秋の神宮大会準決勝の創成館(長崎)戦のみ。41勝1敗という準パーフェクトイヤーを歩み、史上初となる2度目の甲子園春夏連覇も達成した同校史上“最強世代”。その支柱となったのは投手兼遊撃手の根尾昂(ねおあきら)だ。
国体では初戦の下関国際(山口)戦に先発登板し、自己最速に並ぶ150キロを記録。さらに勝利打点となる2点本塁打をレフトスタンドにたたき込んだ。
「終わったな、というぐらいの感慨しかないですね。まだまだやれていないことのほうが多いので、やりきった感じはない。神宮大会も本当は優勝しないといけない大会だった。もちろん、あの負けがあったから(その後に)勝てたというのはありますけど、悔しい経験としてこれからも残っていくと思います」
昨年の師走、「2018年ブレイク大予測」というアエラの特集で根尾を取り上げた。
中学3年生で146キロを投げ、スキーのスラロームでも優勝した“スーパー中学生”が、全国屈指の野球名門校でも1年夏からベンチ入り。非凡な才能に加え、実直に野球と向き合う姿勢から先輩に「根尾さん」と呼ばれていた。来たる夏の選手権100回大会では主役となり、秋のドラフトでは競合が必至──。そんな原稿だった。
高校野球界では名の知れた球児だったが、編集者が作成したプロフィルには当初「いたお・すばる」と、名字にも名前にも誤ったふりがなが……。個人的に思い入れの強い選手であるだけに、怒りに近い感情を抱いたが、それが世間の認知度であろうと冷静に受け止めた。
年が明けてすぐ、大阪桐蔭の初練習に向かうと、律義にも根尾の方から新年の挨拶をしてきた。年末の出来事を伝えると、
「皆さんに名前と顔を覚えてもらえるように頑張ります」
と健気に答え、太い眉毛をへの字に曲げてはにかんだ。その後、春の選抜では前年に続く胴上げ投手となり、夏の甲子園でも2勝を挙げるだけでなく、4割を超える打率を残し、3本塁打を記録。もはや誰も彼の名を間違えることはないだろう。