「異色ずくめのヒット」かもしれない。既刊10巻で累計発行部数600万部を突破、来年1月からテレビアニメ放送も控える『約束のネバーランド』は、主人公は11歳の女の子、人を喰らう鬼の支配する世界から脱出し、新天地を目指す脱獄劇だ。連載されているのは、なんと少年漫画誌の王様、週刊少年ジャンプ。
作品誕生のきっかけは、13年の冬、原作者の白井カイウさんの持ち込みだった。集英社では、電話を受けた新人編集者が持ち込みに対応する。少年ジャンプ編集部の杉田卓さん(29)は、当時、年間300件もの持ち込みに対応していた。
「300ページを超える内容でしたが、その場で一気に読みました」(杉田さん)
海外ドラマやハリウッド映画的な大人向けの雰囲気で、いわゆる「明るい少年漫画」という印象ではない。けれど、とにかく面白かった。物語の切り口、せりふの強さ、テンポ、すべてが非凡で、杉田さんを惹きつけた。
「『少年誌でやりたい』という白井さんの希望もあったし、ぼくも敢えてジャンプでやるのが面白い、と直感しました」
ところが、当初の編集部の反応はイマイチ。それでも、杉田さんには、自信があった。
「ぼくは王道の人気作が大好きな生粋のミーハー。感覚が読者に近いと思っていました。だから、いま評価されてないのは、面白さがきちんと伝わっていないだけで、伝え方を変えればいけると思えたんです」
面白ければ、必ず道は開ける。杉田さんと白井さんは、打ち合わせを重ね、作品を練り上げる作業を繰り返した。
脱獄劇を逆境に立ち向かう話と捉え、ジャンプらしい、努力や友情、勝利といったエッセンスを吹き込んだ。逃げるのは、主人公ら3人だけではなく、施設の全員。誰も見捨てず、前を向いて新しい世界をつくる。
3話目までのプロットが完成し、「おもしろくなった」とGOサインが出た。連載を見据え、続く4話に半年もの時間をかけた。連載作品では、物語を広げるカギになると考えたからだ。
「いまは娯楽が無数にあるから、みんなおいしいとこ取りに慣れている。『そのうち面白くなる』のでは、読者は待ってくれない。最初から強く心をつかまないとヒットは難しい時代だと思います」(杉田さん)