16歳で初めて読んだ時は、自分の感情が登場人物に近かった。だが、自分が大人と分類される年代に近づくと、見えてくるものが変わってきたと語る。
SEALDs(シールズ)のメンバーとして、安保法制反対などを訴えた津田塾大学の学生、溝井萌子は22歳。『リバーズ・エッジ』のハルナに自身を重ねる。「川縁」は、自分の生まれた街、埼玉県川口市の風景と同じだと言う。
「今年55歳になる父親が岡崎京子の大ファンでした。90年代なので、描かれているファッションこそ違いますが、荒川のほとりで、工場があって、団地がある。同世代の友だちは、とくに大きな変化も求めず、ダラッとした日常を続けている。いまでは住民の4人に1人が外国人で、あらゆる人種がごちゃ混ぜになって生活しています」
高校時代にいじめに遭い、自宅に引きこもっていた時に、父親の本棚で手にとった『リバーズ・エッジ』。自由を求め、マイペースでもタフに生きようとするハルナは溝井自身だった。
岡崎本人は、この状況をどう思っているのか。
岡崎の弟・忠は、東京・下北沢で実家の理髪店を引き継ぎながら、父と母と共に姉の自宅療養を支えている。事故の後遺症で手足に麻痺が残り車椅子生活の岡崎は、以前のように筆をとって、創作に臨むことはまだできていない。家族と共に好きなアーティストのライブに行くなど、穏やかな日々を送っているようだ。忠は言う。
「京子さんとは、病院から退院してきてはじめて本当の家族になれたと思います。初めて京子さんの前で他愛もないギャグをやって、彼女が笑った時は本当にうれしかった。昔から僕の役回りはパシリで、京子さんと妹がペチャペチャおしゃべりをしている時、近くのコンビニまで行かされていました。そうした何げない光景が、京子さんの初期の作品には数多く登場することを、僕は事故後にはじめて知ったんです」
岡崎は映画「リバーズ・エッジ」を見ているが、映画のように場面展開の激しい動画を認識するのは難しい状態らしい。