経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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パリにいます。昨年もこの時期にパリにいたんですね。
で、ここフランスにいると日本の地方創生が狂ってる、と言うしかない現実に打ちのめされてしまう。フランスの地方都市はここ数年他の都市にはない魅力を独自に熟成させており、そこの都市に行ってお金を使いたいという人が世界中から集まってきている。
誰一人として、パリと同じような街づくりをしたいなんて考えている人はいません。その地方都市ならではの街並みを保存すべく市が管理しています(これぞ行政の仕事です)。一方、日本は全国どこに行っても駅の景観は変わらないし、商店街はすべて区画整理されて全く歴史が感じられない、魅力のない街並みになってしまった。街並みがきれいだからとモンペリエを訪れるフランス人はたくさんいますが、街並みそのものを見に行く日本の地方都市が思い浮かびますか?
そしてなんといっても食べ物です。ボルドー、マルセイユ、モンペリエ、リール、ブルゴーニュ、シャンパーニュ等々、そこでしか食べることができない料理を提供するレストランが満載です。つまり、食べるためだけに訪問するほどの価値がそこにつくられ、金をとる仕組みが出来上がっているので、日本のように観光客の集客数を競うなんてつまらないことは目標にしない。どれだけお金を使ってもらうかに価値を集中させているからこそ、独自の食文化がさらに熟成されてくる。
ワインにしても同様です。例えば、ボルドーではボルドー産のワインの成分比率は法律で決められており(いわゆるボルドーブレンド)、栽培できる葡萄の種類も限られています。それを逸脱したものはボルドーワインと名乗ってはいけない。結果的に一本何万円もするブランドが生まれ、世界中の連中がそれを目当てに街にやってくる。そしてそれを支える料理文化も育っていく(ワインだけ飲むわけにいきませんから)。例えばボルドーには、世界的に有名なシェフが2人もいますね(ゴードン・ラムゼイ、ピエール・ガニェール)。
日本でも補助金がぶち込まれ、日本中でワインが造られています。ですが、そこの地方のワインがなんたるかを考えてもいないため、とてもそのワインを目当てに観光客が訪れるなんてことにはならないのです。
※AERA 2017年6月19日号