西部邁(にしべ・すすむ)(78):評論家。北海道生まれ。吉野作造賞を受賞した『経済倫理学序説』など著書多数。現在は、雑誌「表現者」顧問/中島岳志(なかじま・たけし)(42):東京工業大学教授。大阪府生まれ。専門は南アジア地域研究、近代思想史。著書に『ナショナリズムと宗教』『「リベラル保守」宣言』など(撮影/写真部・大野洋介)
西部邁(にしべ・すすむ)(78):評論家。北海道生まれ。吉野作造賞を受賞した『経済倫理学序説』など著書多数。現在は、雑誌「表現者」顧問/中島岳志(なかじま・たけし)(42):東京工業大学教授。大阪府生まれ。専門は南アジア地域研究、近代思想史。著書に『ナショナリズムと宗教』『「リベラル保守」宣言』など(撮影/写真部・大野洋介)
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 自民党の閣僚や国会議員にも「ネトウヨ」のような発言が増え、籠池問題で保守派のイメージが暴落した。「あんなのと一緒にしてくれるな」と怒る保守の論客が、沈黙を破った。

──現代では「保守」という言葉が、さまざまに解釈されています。「保守」という言葉の定義を教えてください。

中島:政治的な保守という場合、近代合理主義に対するアンチテーゼとして生まれた近代思想の系譜を指します。イギリスの政治思想家エドマンド・バークを嚆矢とする、近代左翼の人間観に対する懐疑的な態度です。左翼は理性に間違いはないと信じ、理性と合致した社会設計をすれば、理想社会が実現できると考える。それに対して、バークは人間の理性の完全性を疑った。理性を超えた慣習や良識にこそ、歴史のふるいにかけられた重要な英知があると考えた。これが保守のスタート地点です。

西部:保守の政治思想は三つに整理できる。第一は、中島君が言った、人間の完成可能性への懐疑。人間は道徳的にも認識的にも不完全性を免れないのだから、自分が思い描く理想だけで大変革をすると取り返しがつかなくなるという姿勢です。第二は、国家有機体論。社会はまるで植物の有機体のようにいろいろなところに張り巡らされ、成長したり衰退したりする。そこに人工的な大改革を加えると、有機体が傷ついてしまう。個人や集団の知恵ではとらえきれない、長い歴史を有し、複雑で多種多様な関係を持った有機体であることを忘れてはならないという論理です。第三は、改革はおおむね漸進的であらねばならないということ。合理的に説明できないという理由で破壊的な社会改革はすべきでない。伝統の精神を守る限りにおいて、一歩一歩、少しずつ改革していくべきだという考えです。

──伝統の精神を守れば、保守でも現状を変えるのをいとわないということですか。

西部:保守を、現状維持と解釈してはいけません。現状とは過去から残された慣習の体系ですが、保守はそれを無条件に受け入れはしない。本当の保守は慣習という実体の中に歴史の英知のようなものを探りあて、それを今に生かそうとします。それが、どの変化を受け入れ、拒否するかの基準になる。ただ、歴史の英知には実体がない。「天皇陛下」や「靖国神社」は歴史の英知ではなく、慣習の体系です。その中に日本国民のバランス感覚がどう示されているかを、その時代、その状況において、皆が議論して確認する。そうした慎重な態度を保守思想と言うのです。

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