いまや世界4位のアパレルメーカー、ユニクロ。デザインなどの進化が止まらないが、それゆえ手に入らない「昔のユニクロ服」にこだわり続ける人たちがいる。
「まるでおまえの皮膚だな」
都内のIT企業に勤める男性(47)にはそう言われるほど着こんでいる服がある。1999年ごろ買った、ユニクロのフリースだ。外出先で肌寒かったので、ふらっと近くのショッピングモールに入り購入したもの。
「たしか980円と、お手ごろだったので買ったんです」
男性はそう振り返る。これが初ユニクロ。以来、17年。年がら年中、このフリースを着ている。こだわりのポイントは三つ。
「生地が今とは違って厚手。おまけにジッパーがハーフジップで、ポケットも二つついているんです」
薄手のマイクロフリースも持っているが厚手の方が暖かい気がする。ジッパーも今はフルジップが主流だが、ハーフジップは頭からかぶるだけなので楽。フルジップのような上着感もないので、室内で着ていて違和感を覚えさせない点もいいのだという。同じものをさらに欲しいと思ったが、フリースは毎年進化するため手に入らず、いきおい17年間着続けることとなった。
●夏もフリース
男性はこのフリースを冬だけでなく夏も着ている。夏場は外は暑いものの、室内に入るとエアコンがきついケースも多い。さすがにこれだけ着ているとよれた感じは否めず、人に指摘されることもある。そうしたときに男性はこう言い返すという。
「このフリースはボロではない。ヴィンテージなんだよ」
まるっきり同じものは既にユニクロでは売られていない。男性にとっては文字通り“一品もののヴィンテージ”なのだ。
和歌山県に住む主婦(30)も初夏の日差しを感じ始めると、ゴソゴソ取り出すマイ・ヴィンテージがある。初期のころのブラトップだ。胸元のレース幅が大きいのがポイント。女性は言う。
「ブラウスの下に着て見せても、レースが大きいので下着のように見えないんです」
女性も同じものがさらに欲しかった。しかしその後、ブラトップのレースは小さくなってしまい、ことあるごとに売り場をのぞいてきたが見当たらないという。
「何年も着てしわしわになってきていますが、代替品がないので手放せません。同じのが売り出されたら絶対欲しい」
数センチのレース幅の違いが、女性のブラトップをヴィンテージ化させている。
●J・サンダーが買える
最新の流行を服に採り入れ、短いサイクルで安く大量に販売するファストファッション。その代表格ともいえるユニクロはフリースやヒートテックのブームを経て、いまや「世界4位のアパレルメーカー」にまでなった。しかしその一方で、こうした高速回転の流れに逆行するように、時を止めて「あの時の、あのユニクロ服」にこだわり続ける人たちもいる。
都内のアパレルメーカーに勤める男性(37)のマイ・ヴィンテージは「+J」の紺のVネックセーターだ。「+J」はユニクロが2009年から11年にかけて期間限定で、世界的なデザイナーのジル・サンダーと組んで展開したシリーズ。
「あのジル・サンダーの服が買えるという、それだけで感激でした。緊張して店に入れず、外からのぞくばかりでしたから。セーターは3千円か4千円くらいで買いましたが、ジル・サンダーの店で買ったら、ゼロがもう1個多くつくと思います」
セーターのVの先端部分は布が重なる“あわせ”のようなデザインになっている。ユニクロがこうしたデザイン性を服に採り入れたこと自体、男性にとっては当時驚きだったという。「+J」によって「無個性な定番服メーカー」のイメージから「ファッションブランド」へとユニクロは大きく脱皮した。
男性はミニマムな暮らしを志向していて服の数を決めている。1着買ったら1着捨てる。10年以上着られるかが服選びのポイントだ。綿素材のセーターはフォーマルにもカジュアルにも使えて重宝している。
「とても気に入っているので、あまり着ないようにしています(笑)」