いまや「お膳立て婚」ではなく「自己責任婚」の時代。職場や「婚活」で自ら理想と合う相手を探し、恋愛の駆け引きを経て、結婚にこぎつけるまでを自力で進めなければならない。

 それでも嫌婚派は、恋愛もあくまで「待ち」の姿勢。嫌婚男子の理想の恋愛アプローチは「自分から」より「相手から」のほうが上回っている。一方、女性も8割が「相手から」「何となく」と男性のリードを期待。これは女性の年収が400万円未満でも400万円以上でもほぼ同率だった。経済的に自立している女性でも「プロポーズは男性からしてほしい」「いざとなったら男性にリードしてほしい」といった保守的な恋愛観を持っていることがうかがえた。

 嫌婚派は恋愛には消極的・保守的でありながら、結婚後の生活については、従来の性的役割分業にとらわれないリベラルな感覚を持っているのも印象的だ。

●親の夫婦像は合わない

「女性は出産したら離職すべき」「3歳までは母親が育児に専念すべき」と答えた人の割合は好婚派よりも少なく、共働きを前提とした家庭運営を想定しているようだ。嫌婚男性は、結婚相手に重視する条件として「家事・育児の能力」よりも「経済力」を挙げる傾向もあった。共働きを前提とするならば、結婚後は家事や育児を分担するのが夫の務めということになる。「結婚したら当然そうすべきだ」と律儀に感じているからこそ、無意識にプレッシャーとなって嫌婚につながっているのではないだろうか。

 調査には結婚のメリット・デメリットを自由に書いてもらった。嫌婚派の男性の意見はシビアだ。

「権利が半分になり、義務が2倍になる」(29歳)
「子どもを持つことがメリットにもデメリットにもなり得る」(30歳・会社員)
「人生に重りをつけられる」(41歳・会社員)

 水無田さんは、男性の嫌婚は「自己防衛本能」からきているのではないか、とみる。昭和の亭主関白夫のようにはいかず、小遣いを切り詰められたり趣味を制限されたりと、結婚相手によっては生活の質がガクンと落ちるリスクがある。

「日本は公的な場では女性は守られていないが、私的な関係では女性のほうが守られやすい。生活相談やシェルターは圧倒的に女性向け。男性は安定した家庭を築けないと一気に生活基盤を失ってしまうから、結婚相手を選ぶことに慎重にならざるを得ないのではないか」

 また、嫌婚派は親が築いた家庭に憧れないと答えた人が7割に上った。憧れない理由を聞くと「両親のような夫婦像が自分には合わないから」が半数に近かった。

 調査の回答者の親は主に60~70代。恋愛結婚が主流になった1970年代に結婚した世代だが、80年代には「亭主元気で留守がいい」「粗大ゴミ」「夫源病」「濡れ落ち葉」など、定年退職後の夫を妻が疎ましがる俗語がCMなどで話題になった。

●愛情だけで結婚できず

 回答者の7割は、父親がフルタイムで働き、母親が専業主婦またはパートタイムで働いて家事を一手に引き受ける家庭環境で育っていた。当時まだ少数だった共働き家庭で育った女性には、嫌婚派が多い。仕事に家事に育児にと追われる母親の姿が理想には思えない。これも女性のほうの「自己防衛本能」なのだろうか。水無田さんは、子どもの頃に結婚の理想と現実に触れたことも、嫌婚の背景にあるのではと推察する。

「結婚していれば安泰だという幻想は80年代にすでに崩れ始めていた。愚痴をこぼしながらも仮面夫婦を続ける親を見て、結婚とは規範に感情を合わせることであって、愛情だけではできないのだと刷り込まれてきたのです」

 ロマンも幻想も崩れたいま、結婚は最難関の「通過儀礼」となっている。そこを通ると幸せになれるの? 嫌婚宣言は、そんな問いかけに満ちている。

AERA  2015年6月22日号

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