グーグルが「自動運転車」の開発に乗り出すなど、世間で人工知能(AI)の存在感は確実に増している。なかにはすでに実用化され、働いているAIもある。
「親が他界しました」
スマートフォンのアプリに話しかけると、画面に表示されたアニメーションの女性が、やさしい声で返してきた。
「相続に関するお問い合わせですね。役所での死亡手続きはお済みですか?」
アニメの女性には、名前がある。東邦未来さん。「相続手続きナビゲーション」の案内役で、2014年11月、福島県内を営業基盤とする東邦銀行(本店・福島市)に入行した、という設定だ。「(手続きは)済みました」と答えると、「遺言書はございますか?」と聞いてくる。「ある」と答えれば、「遺言書の種類は公正証書遺言書でしょうか?」と、やり取りは続く。公正証書遺言書の意味がわからなければ、さっとサンプルを表示し、説明してくれる。
この未来さんは、東邦銀行と東芝が共同開発した、AIによる対話システムだ。銀行が蓄積してきた相談業務のノウハウと、東芝の音声認識・合成技術、知的会話システムを組み合わせてつくった。東芝インダストリアルICTソリューション社商品統括部の林政浩さんは、
「対話システムの多くはキーワード検索にとどまりますが、当社のシステムは、構文を解析して『5W1H』を理解します」
と話す。つまり、文脈から状況を読んだり、相手の意図をくんだりするのだ。この対話システムの開発のかぎは、不特定多数の人にアイデアなどを募る「クラウドソーシング」の手法を採り入れたことだという。
例えば、銀行の窓口で「相続手続きをしたい」と相談するとき、利用者はどんなことを考えているか、クラウドソーシングを使って声を集める。そこで得られた回答は、「遺産を分けたい」「相続の仕方がわからない」「父が亡くなった」など1千パターンを超える。多様な答えを学習しながら、AIは相談者のニーズに的確に応えられるようになる。法的知識を要する相続手続きの説明は、ベテランの銀行員でも難しいが、AIの未来さんは短期間で次々に専門知識を習得している。
※AERA 2015年6月15日号より抜粋