中村活字人脈が途絶えかけた活版文化を支えている。この名刺いいね、と思える感性が、人と人とをつなぎ、コミュニケーションを生んでいる(撮影/写真部・岸本絢)
中村活字
人脈が途絶えかけた活版文化を支えている。この名刺いいね、と思える感性が、人と人とをつなぎ、コミュニケーションを生んでいる(撮影/写真部・岸本絢)
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 本来、名刺交換だけで人脈を築くことは難しい。だが、人と人をつなげる、不思議な力を持つ名刺があるという。

 下町の風情が残る東京・東銀座の裏路地に、知る人ぞ知る名刺を作る印刷所がある。「中村活字」は、今年で創業105年を迎える活版印刷の老舗だ。5代目主人の中村明久(66)は言う。

「新聞社や広告会社が密集していたこともあり、活版印刷は銀座の地場産業でした。しかし、1970年代に入りプリンターなどのオフセット印刷の技術が開発されると、時間と労力のかかる活版印刷は一気に廃れてしまいました」

 最盛期には東京都中央区だけで少なくとも200軒の印刷所があったが、現在は活字を扱う店も含めて「中村活字」ただ一軒。中村は、最新のオフセット印刷への対応を試みる一方、何らかの方法で活字の文化を後世に伝えることができないかと試行錯誤していた。

 そんな時、活版印刷の名刺に注目が集まる。そもそも活字が何かを知らない若い世代に普及するきっかけのひとつが、大手広告会社に勤めながら、「東京カリ~番長」という一風変わった料理ユニットを主宰する水野仁輔(41)の存在だった。当時、水野は会社の名刺とは別に個人の名刺を作ろうと思い立ち、凝ったデザインの名刺をいくつも誂えていた。しかし、凝ったデザインはなぜか時間の経過と共に飽きてしまってなじまない。

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