かつて、ビジネスパーソンの「食」は取引の手段だった。だが今は、しがらみから解放する「癒やしのツール」になっている。(編集部・齋藤麻紀子)
みんなでギョーザを食べ、眠くなったら帰る。なんとも原始的……いや、楽しそうな集まりが、ITの街・渋谷で行われている。ネットで呼びかけて、ふらっと「餃子の王将」に行く会。開催は月1、2回で、有志の集いだ。今回も、ITベンチャーのコンサルティングを行う山口豪志さん(31)がSNSで告知すると、開催2週間前には最大参加人数の8人が埋まった。
参加者の多くはITベンチャーの経営者やエンジニア。主に20代から30代で、参加者同士は「はじめまして」のケースもある。食事の場では、
「あの会社、社長が代わったみたいよ」
「いま、こんなサービス作っているんですよ」
と、同業者ならではの会話が飛び交うが、商談が始まったりすることは決してないという。
いま、ビジネスパーソンの「食」に変化の兆しが見える。「朝活」では朝食をとりながらビジネススキルを学び、ランチタイムに人脈作りをする「パワーランチ」ブームもあった。でも昨今の忙しいビジネスパーソンにとって、食はむしろリフレッシュの感覚。まさに「楽メシ」なのだ。
●脱「パワーバランス」
先のギョーザの会も、大切にするのは、「ビジネスの成果」ではなく「ギョーザの流儀」だ。
ギョーザは、注文のたびに焼き方やタレを変え、アクセントをつける。焼き方は、薄焼き、普通焼き、よく焼き、両面焼きの4種類。山口さんはパリっと焼き上がる「よく焼き」を好むが、同席した男性は「薄焼き」のソフトな食感が好み。なんでも彼は、ギョーザの「のどごし」を重視しており、焼き面の柔らかさにこだわっているという。
しかしなぜ、ギョーザなのか。山口さんは「日頃の仕事には、パワーバランスがつきもの」と言う。ベンチャーは企業との取引や提携によって成長するが、相手企業の規模によってその出方を変えねばならない。「パワーバランス」と隣り合わせの日常の一方で、ギョーザは「たとえごちそうされても恩は着せられない」価格帯。ギョーザを前に、人は平等になれるのだ。
「ビジネスの関係性から解放され、ひとつの皿をみなでつつく。その時間がとても楽しいんです」(山口さん)
ちなみに、みんなで食を囲むことは、身体面にも良い影響がある。Jリーグの清水エスパルスなどで栄養指導をする公認スポーツ栄養士のこばたてるみさんは「会話を楽しみながら食事をすると、唾液の分泌もよく、またリラックスしているため消化吸収もよくなります」。