近年、フィリピンで入手した、ウナギの稚魚であるシラスウナギを「ニホンウナギ」のものだとして持ち込むブローカーが増えているという。ニホンウナギのシラスはフィリピンでも取れるが、圧倒的に量が少ないため、別の品種を偽っていることも少なくない。この背景には、フィリピンでのウナギ事情の変化があるようだ。

「当時は、こんなふうにシラス漁が盛んになるなんて想像できなかった」

 と、現地の変貌ぶりを話すのは、東京大学大気海洋研究所の青山潤特任准教授。2008年から何度も調査で訪れているが、当時のシラスの価格はキロ5千円だった。それが、いまでは10万円以上に。現地では日本企業より、全身入れ墨の韓国人や中国人の姿を多く見かける。ニホンウナギが取れなくなり、ウナギビジネスで優位に立とうと買い付けに走っているようだ。

 水産庁が確認した情報によると、フィリピンは、15センチ以下のシラスは国外輸出禁止とする方針を決めたという。国内の卸加工業者によると、日本向け輸出を視野に養鰻(ようまん)を地場産業に育てようとしているらしい。

 だが、そうした国内法が存在していても、「実際のところは無法状態。現地の貧しい漁師の生活を見れば、こうしたチャンスに乗ろうとするのも致し方ないかと思いますが」(青山准教授)。

 なぜ素人がウナギビジネスに相次いで手を出すようになったのか。高値で取引できる上に、取り扱いが簡単なことが理由だという。

 ニホンウナギの不漁を受けて、国内では年々シラスの価格が高騰し、水産庁によるとニホンウナギのシラスの国内平均取引価格は、11年にキロ87万円だったのが、今年に入って248万円と3倍近くに跳ね上がった。一方で、フィリピンでは、現地取引の関係者によると、シラスがキロ10万円台で取引されているという。

 フィリピンで安値で購入できたシラスが、のどから手が出るほど欲しがる「ニホンウナギ」ではなく、別品種のウナギであることを、新規参入した日本人ブローカーが見分けるのは難しい。

AERA 2013年11月18日号より抜粋