幕があがると、そこは「白鳥の湖」の舞台。チャイコフスキーの音楽が流れるなか、幾多の困難を乗り越えたヒロインは、今、舞台の中央へ向かう──こんな場面を、少女マンガで読んだ記憶がないだろうか?
戦後の少女マンガの中でも、ひときわ熱心に描かれ、少女たちを熱狂させてきたのがバレエ・マンガだ。そんな作品を集め、改めて歴史を振り返る「バレエ・マンガ~永遠なる美しさ~」展が、京都市の京都国際マンガミュージアムで開催中だ。
会場には、大正時代の少女雑誌から、高橋真琴『東京~パリ』、牧美也子『マキの口笛』、山岸凉子『アラベスク』、有吉京子『SWAN─白鳥─』など、作家12人の名作マンガの原画など約120点が展示されている。
展覧会の資料調査と年表制作を担当した少女マンガ研究グループ「図書の家」主宰の小西優里氏は、資料収集やリサーチを通じて、当時の少女たちのバレエ・マンガへの熱狂ぶりを改めて実感したという。
「調査できた作品をまとめたら数百にものぼり、驚きました。学年誌や少女雑誌の付録も見つかり、そこにもバレエ・マンガが描かれていました」
その人気はマンガだけでなく、バレリーナのぬりえや着せ替え人形にまで及んだ。これほど、少女たちを魅了してきた理由について、展覧会を担当する研究員・倉持佳代子氏はこう語る。
「華やかで美しいバレエはいかにも少女マンガ的ですが、実はスポ根の要素もあるし、女性の生きかたと関わりが深いジャンルなんです」
確かに、華やかな世界だからこそ、バレエ・マンガのヒロインには苦難がつきものだ。自分の体を鍛え、表現力を磨かなければ成功できない。『アラベスク』も『SWAN─白鳥─』も主人公は、有能な男性ダンサーに見いだされ、その指導のもと、自分の才能を磨いていく。王子様に救われるだけのお姫様ではなく、努力で成功をつかむシンデレラなのだ。マンガ評論家の故・米澤嘉博氏も、その著書で求められるヒロイン像の変質を指摘している。
もともと少女マンガのヒロインは、お姫様や少女スターだったのが、「より現実性と具体性を持つ形で出てきたのがバレリーナだった」という。そこには血筋ではなく、努力と才能で自分の道を切り開きたいという少女たちの願望があったのだろう。
※AERA 2013年9月16日号