労力をかけて学生に内定を出したものの、辞退されてしまい、再び採用活動に追われる――ここ数年、このような悩みを抱える企業が増えている。背景にあるのは、少数の学生が複数の会社の内定を独り占めする「内定長者」の出現だ。マイナビ研修企画統括部課長の山田功生さんは解説する。
「バブル崩壊以降、ほとんどの企業が量より質を重視した採用活動をするようになりました。多くの会社が少数精鋭を目指した採用活動をすると、優秀な学生にだけ内定が集まります。結果、辞退される企業が増えてしまうのです」
採用で質を求める傾向が一度強まると、景気が上向いてもそれは変わらない。より多くの人材を採用できる余力があっても、基準を満たした人材をとれないのであれば、募集を締め切ってしまう企業が増えているという。
辞退の多発を受けて、企業の側も対策を練り始めている。これまでの採用活動は、学生を選考して内定を出すことをゴールとしている企業が圧倒的に多かった。しかし、最近は内定を出すまでのプロセスや内定の伝え方、そして内定者のフォローなど丁寧な採用活動を重要視する企業が増えてきた。
この傾向にいち早く気づいた企業のあいだでは、優秀な人材を競合などに奪われないためにあの手この手の対策合戦になっている。ある中小企業は、対面で内定を出した後、学生が帰宅するまでに家にバイク便で花束を送っている。学生に「この会社で働きたい」と思ってもらうための「感動の演出」だ。