日本経済の中心地、東京・日本橋エリアには、上から照りつける直射日光とアスファルトの照り返しでビジネスマンらを苦しめる「灼熱の道」が点在する。東西線茅場町駅から新川一丁目に向けて霊岸橋が架かる通りもその一つ。通勤時間帯は橋を渡る人々を容赦なく太陽光が襲う。 その灼熱の道を、涼しげに歩く男性がいる。会社員の村上信哉さん(62)だ。妻に勧められ、2年前から日傘を使い始めた。汗を拭いながら眉間にしわを寄せて歩く若い男性を見るたび、「我慢せず、差せばいいのに」と思う。
この1、2年、日傘を差す中高年、いわば「日傘紳士」が増えている。背景にあるのは猛暑日と熱中症による救急搬送患者数の増加だ。7月、最高気温が35度以上の猛暑日は27日間あり、熱中症で救急搬送された患者も約2万2千人と、昨年を上回った。
こうした背景もあり、今夏の男性用日傘市場も活発化している。「通販生活」で知られるカタログハウスは、社の幹部が熱中症にかかった経験から、命を守るグッズとして男性用日傘を開発。今年5月発売の夏号で初めて「男も日傘をさす時代」と銘打ち、大々的に紹介した。
09年から扱う東急ハンズも、「今年は特に問い合わせが多い」と手ごたえを示す。全国有数の品ぞろえを誇る高島屋日本橋店も、「自ら日傘を選ぶ男性の姿を見かけるようになった」と変化を話す。
といっても、全体的にはまだハードルが高いと感じる男性が多いのも事実。日傘を差さない理由を都内の会社員に聞くと、「気恥ずかしい」(30代)、「手荷物になる」(40代)、「ほしいデザインがない」(40代)など。
だが、売り場は着実に変化している。高島屋日本橋店によると、男性用日傘を製造するメーカーが増えたことなどから、昨年に比べてデザインや機能性が向上。価格は5千~1万5千円台で、
「これまでは黒や紺の無地が主流でしたが、今夏は白地にストライプやチェック柄が入った商品が動いています。軽量の折りたたみタイプも人気です」(売り場担当者)
前出の村上さんも最初は、「後ろを歩く女性に笑われているのでは」と気になったが、今では、「涼しさから、もう手放せない」と笑顔で話す。
※AERA 2013年8月12-19日号