そこまではいいんですが、道中二人並んで座ったのでショーケンも僕も難聴同士で、人に聞かれたら困るような話を彼が大声でするもんだから、乗客が振り返って、「シーッ」と言うんだけれどおかまいなしです。僕も難聴だと言うと、「いい先生を紹介する」と、そんな話を乗客全員に聞こえる声でやられたのにはまいってしまいました。彼の難聴は僕より重症なので、自分に聞こえる声でしゃべると、ついつい、大声になるんですよね。

 帰京と同時に病院に予約まで入れてしまうので行かざるを得ない。いやー、度を越えた親切ですよ。ショーケンは何をやっても許されてしまうような可愛い性格でしたね。それでセトウチさんも一生懸命にショーケンの面倒を見ました。僕も少しは面倒を見たけど、彼が僕に対する面倒を見るのはそれを上廻っていました。こういう愛すべき人間がいなくなったことで、世の中は面白くなくなりましたね。こういう人は現世では嫌われても、あちらでは神様に愛される存在だと思います。二人が行くのを待っていそうでヤバイですね。See you soon.

■瀬戸内寂聴「ああショーケン まだ書いてない話を聞いて!」

 遅ればせながら「明けましておめでとう」。この新年で、数え年なら九十九歳になった私は、もう当然とばかり、食って、呑(の)んで、朝から終日寝てばかりの極楽暮らしをしています。人も遠慮と称してめっきり来なくなったので、実に静です。

 でも、一応、門前にかど松も立てて、一応お正月らしい風情は造っております。

 さて、新年早々、ヨコオさんからショーケンの想(おも)い出話を持ち出して下さり、ウォーと掌を叩(たた)いて喜びました。

 かつて毎朝早く壁に取り付けた電話(その頃ケータイなど殆[ほとん]どの人がまだ使っていません)がリンリンと鳴り、ショーケンの例の大声が耳に飛び込んできます。

「お母さん! お早う! 今朝も走ってるよ。いよいよどっちかに決めなきゃならなくなったのよ、二人のうち。オレははじめから小柄の方が好きなんだけどさ、そいつ結婚してて、亭主もいい奴なの。それでオレ、亭主と別れて来れば、話に乗るって言ってるの……うん、若い子の雑誌の読者モデルって奴、オレと座談会して知り合ったのよ」

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