ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ソーシャルメディアが大きな影響力を持った今だからこそ、紙媒体の存在意義が問われているという。
【写真】「あいちトリエンナーレ2019」芸術監督として会見する津田さん
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2016年春より始まった本連載だが、今号で最終回を迎えることとなった。連載当初は「ウェブの見方紙の味方」というタイトルの通り、ネット上で起きている事象を週刊誌──紙媒体の読者向けに噛(か)み砕いて解説しつつ、苦境にある紙媒体が生き残るための注目すべき取り組みを紹介する内容のコラムだった。
17年に入ってからは、フェイスブックやツイッターで流布するフェイクニュースや世論工作活動、それらを管理するソーシャルメディア事業者の社会的責任について語る内容が中心になっていった。
英国のEU離脱が決定した国民投票と、トランプ大統領が誕生した米大統領選という二つの大きな国際的「事件」で、組織的な世論工作活動が行われた可能性が指摘されたからだ。
二つの出来事は、世論形成過程において、ウェブが旧来のマスメディア以上に影響力を持つようになり、政治を動かすことが可能になったことを端的に示した。ウェブを巡る17~18年の激動の歴史は、本連載を元に最新の情報を加えて大幅にアップデートし、朝日新書『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』(18年11月発売)にまとめた。興味のある方はぜひご一読されたい。
同書の終章で筆者はフェイクニュースについてこのように書いている。
<もはや虚偽情報を“根治”することはできない>
<対症療法をどのように組み合わせて症状を軽くするのか、その方法論や包括的な対策が求められている。回りくどいこのやり方に知恵を絞らない限り、フェイクニュースの影響力を削(そ)ぐことはできないだろう>
ここ1年ほど、さまざまな対策が進んでいる。紙媒体がソーシャルメディア上で拡散するフェイクニュースをファクトチェックし、ネットに展開することで影響力を小さくする。ヘイトスピーチやフェイクニュースを大量に掲載しているサイトの広告主にクレームを入れることで、広告をストップさせる。悪質なウェブサイトに対しては、訴訟が起こされることもあった。
ソーシャルメディアによって汚されてしまった情報環境を改善するには、良質な情報(良貨)でジャンクな情報(悪貨)を駆逐していくほかない。
最新の調査によれば、世界中のソーシャルメディア人口は35億人にも及ぶ。世界人口の5割弱がソーシャルメディアを利用する、そんな時代を我々は生きている。
ソーシャルメディア(ウェブ)がマスメディア(紙)の影響力を超えてしまったいまの時代だからこそ、良貨としての紙媒体の存在意義が問われている。
週刊朝日は次号からのリニューアルで、対象読者をより高年齢層に設定するそうだ。紙媒体を巡る経済状況が厳しい折、やむを得ない判断なのだろうが、その方針で雑誌をつくれば10年後に読者が大幅に減ることは避けようがない。現存する最古の週刊誌の行く末は、紙媒体の未来とも重なるはずだ。ウェブの世界に生きる一人のジャーナリストとして、最後まで紙の味方であり続けたいと思う。
※週刊朝日 2019年5月3日号‐10日合併号