

皇室の代替わりがいよいよ迫るなか、歴史から皇室のあり方を読み解くノンフィクション作家の保阪正康氏と、宮内庁取材の第一人者である元朝日新聞編集委員の岩井克己氏は、皇室の今後を危惧する。
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■政治家、役人に薄らぐ象徴天皇の役割の大切さ
岩井:官邸と皇室の関係の希薄化が気になるところです。両者のコミュニケーションがなくなり、政治家、役人の側に、「象徴天皇の役割がいかに大事か」という危機感が薄らいでいます。
だから、遠慮もなくなり、2013年に憲政記念館で開かれた「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」に、両陛下の出席を要請したり、五輪招致でも「皇太子や皇族に招致活動の先頭に立ってもらおう」と平気で言いだしたり。
保阪:歴史を振り返ると、朝廷と武家政権、国家権力の関係は、時代時代で違う。でも、両者の距離がどうあるべきかは、答案用紙として、我々の前に積まれていると思う。たとえば、江戸幕府は、朝廷と政権を分け、権威については一線を引くという、賢明さをもっていた。
逆に、最低の答案は、昭和10年代です。国民と天皇の間に軍が介在した。大元帥という、軍独自の天皇の位置づけを持ち出したために、あんな戦争になったわけです。
今の天皇はどうかというと、歴代の答案が積み上がってきたなかで、「こんな答案を書きました」と、我々に示している。そして天皇は、「国民は、どう思っているか、意思表示してください。答案を一緒に書こう」と、言ってきているわけです。
そのなかで僕は、「天皇との絆はどうあるべきか」という答案を書いて、次代に継ぐべきだろうと思う。
岩井:だが、いま皇室と権力の均衡と調和が非常に危うくなっていると思う。だから皇室側が、憲法下における皇室のあり方を自分で提案せざるを得ない。
今回の退位に至るプロセスを見ても、象徴天皇というその姿、有りようについて、天皇が問題提起したにもかかわらず、その議論がなされないまま、官邸主導で特例法という変則的な形で着地させてしまった。代替わり儀式についても同じです。面倒だからと早々に前例踏襲を打ち出してしまう。問題が積み残しとなっているのに、議論をしましょう、という機運もない。
保阪:現行憲法を変えるならば、天皇の位置づけについても、もっと議論しなければならない。そこを抜きにしての、憲法9条改正論議は歴史に対して無礼だと思っている。