と、その時。友人が再び騒ぎ始めました。「ちょっとあそこ! 島田陽子!!!」。見れば、りえちゃんとは反対方向から綺麗な熟女が歩いてきます。紛れもなく、数カ月前にヘアヌード写真集『キールロワイヤル』を発表したばかりの島田陽子さんでした。5分前に宮沢りえで“握手童貞”を捨てたばかりの友人は、まるでナンパでもするかのように「島田陽子さんですよね?」と声をかけました。戸惑いながらも女優の微笑を湛える島田さん。負けじと私もかなり軽やかに「握手してください」と手を伸ばしました。10代の男子はすぐ調子に乗るから始末が悪い。それでもハリウッド女優の貫禄で対応してくれた島田さんの手を握りながら、友人はこなれた感じで「お綺麗ですね」と言い、私も「『キールロワイヤル』買いました」と嘘をつきました。そう、嘘です。だって私も友人も男好きでしたから。

 島田さんを見送った後「これでモッくん(本木雅弘)に会えたら、ヘアヌード777(スリーセブン)だね」「あ、樋口可南子もいるよ」などと話しながら店を出たその時です。目の前を小柄の老紳士が亀のように横切りました。「よ、よ、よ……」。吃(ども)り固まるだけの私たち。それはまさかの淀川長治先生!!! 「淀川さん、ヘアヌードなんて出してたっけ?」「わかんない……」。まだろくに男も知らない私たちに、声をかける勇気などあるはずもなく。先生は亀のように六本木通りを渡り、終の棲家になさっていた全日空ホテルの方へと消えて行ったのでした。

週刊朝日  2018年9月21日号

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