米国から購入することになった地上配備型迎撃ミサイルシステムについて、ジャーナリストの田原総一朗氏は、疑問を呈する。
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8月28日、ほとんどの新聞が2018年版防衛白書を紹介して“北朝鮮は、これまでにない重大かつ差し迫った脅威”だと強調した。だが、新聞各紙の報道に、私は強い違和感を抱かざるを得なかった。
去年は米国のトランプ大統領が、北朝鮮の金正恩委員長を徹底的に敵視して、いまにも武力行使に踏み切りそうだった。もしも米国が北朝鮮に武力行使すれば、北朝鮮は韓国、日本に報復攻撃をする可能性が強い。そこで日本は危機感が充満していた。
安倍首相も「国難」だと強調し、報復攻撃があったときに備えるための防衛体制をつくることを意図して総選挙を行ったのである。
だが、今年の6月12日にシンガポールで、トランプ・金正恩会談が行われた。米国の大統領が北朝鮮の首脳と会談したのはこれが初めてである。そこで、期限こそ示さなかったが、金正恩氏は、核廃棄を約束し、トランプ氏は北朝鮮の安全を保証した。ようするに、事態は大きく変わったのである。最近になって、金正恩氏がポンペオ国務長官との会談を拒否するなどの事態が生じているが、トランプ氏は金正恩氏をまったく批判せず、2度目の会談の意向さえ示し始めている。
米朝が戦闘することは、まずないだろう。
第一、トランプ氏は11月の中間選挙を前にそんなことをやっているエネルギーなどないだろう。現に、29日のニューヨーク・タイムズは、トランプ氏の冬の時代が始まる、と書いている。中間選挙が厳しいということだ。
米朝首脳会談に一定の意味があった。つまり、一定の歯止めになる、とは防衛白書も認めているのである。だからこそ日本政府も会談後、ミサイル飛来の可能性は低いと判断して、迎撃部隊を撤収し、住民避難訓練も中止したのであろう。
にもかかわらず、防衛白書はなぜ“北朝鮮の脅威はこれまでになく重大かつ差し迫っている”などと強調しているのか。