来月の自民党総裁選で圧倒的な有利を伝えられている、安倍晋三首相。ジャーナリストの田原総一朗氏は、自民党内の問題を改めて指摘する。
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ある全国紙が大きなスペースを取って痛烈な野党批判を展開している。
国民民主党の玉木雄一郎共同代表が「安倍政権に代わる政権構想を野党も示すのが責任だ」と唱えたが、立憲民主党の枝野幸男代表は答えなかった。野党はどの党も政権構想を持っておらず、安倍内閣批判をしているだけで、しかもバラバラだ。だから、国民は野党に期待しようがなく、野党はいずれも支持率が極端に低い。そのために、安倍内閣は“一強多弱”で、やりたい放題のことができているのだ、というのである。もちろん森友・加計問題などの批判を込めて書いているのだ。
さらに、かつての社会党にも政権構想がなく、だから政治に緊張感が乏しかった、と書いているが、これはまったく間違っている。そして現在の政治に対する捉え方も、言っては悪いが間違っている。
もしかするとこうした捉え方が広がっているのではないか、と不安でこの文章を書いているのである。
社会党時代に、政治は現在よりもはるかに緊張していた。
それは、自民党内に主流派と反主流派があり、両者の論争が、きわめてリアリティーがあってダイナミックであったからだ。自民党の首相が交代するのは、野党との闘いに敗れたためではなく、いずれも反主流派との闘いに敗れたためであった。岸信介、田中角栄、福田赳夫、大平正芳、宮沢喜一等々……。
だが、小選挙区制になって、一つの選挙区から一人しか立候補できなくなり、執行部に気に入られないと公認が得られないので、自民党議員たちは、いわば安倍首相のイエスマンになってしまったのである。
かつての自民党ならば、森友や加計疑惑で、野党よりも前に、自民党内から強い異論が起きて、安倍首相は危うくなっていたはずである。
小選挙区制になっても、小泉内閣の時代は中選挙区制を経験した議員が少なからずいて、郵政民営化にも党内で反対が少なくなかった。