ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ヤフーにヘイトスピーチや虚偽情報が蔓延する背景について解説する
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仙台市の元会社役員の男性がポータルサイト大手のヤフーの掲示板に虚偽の事実を書き込まれ精神的苦痛を受けたとして、同社に投稿記事の削除などを求めた訴訟の判決が9日あった。仙台地裁はヤフーに記事削除と慰謝料約15万円の支払いを命じた。
問題の投稿があったのは、2016年2月のこと。何者かによって男性の実名や職歴とともに「在日朝鮮人である」という虚偽の内容が投稿された。
ヤフーの掲示板やニュース記事に付けられるコメント欄には、ヘイトスピーチや個人の名誉を毀損(きそん)するような虚偽情報が多数書き込まれており、ここ数年、利用者や外部の識者から運営姿勢が批判されている。
同社は17年6月、ニュースのコメント機能について「複数のアカウントを取得し、多くの意見として印象を扇動する行為」を禁止する対応を行った。だが、ヘイトスピーチや虚偽情報への対策は徹底されているとは言えず、事実上放置しているような状態が続いている。
なぜここまでヤフーは掲示板やニュースのコメント欄を放置するのか。背景には同社のビジネス的な事情が見え隠れする。ヤフーニュースにおけるコメント欄のアクセス数はニュース全体の1割強。つまり、コメント欄を廃止すれば、彼らに入る広告収入が1割程度下がってしまう可能性がある。目を覆うような投稿が横行する掲示板サービスを廃止しないのも、無視できないアクセス数と広告収入があるからだろう。
掲載される情報にヘイトスピーチや虚偽情報が含まれていても、同社の対応が不十分なのは、彼らが自らを「報道機関」ではなく利用者の情報発信を手助けしている「プラットフォーム事業者」と位置づけているからだ。
今回の訴訟で原告の男性はヤフーに対し、日本国籍を証明する自身の戸籍抄本などを送って投稿の削除を求めたが、応じてもらえなかった。その理由についてヤフー側は「同姓同名の他人である可能性がある」などと反論している。
これは、ヤフー上に掲載される情報の質について責任は負いかねるという姿勢を示すものだ。はっきりと虚偽だとわからない限り、プライバシー情報の投稿の放置や削除の拒否をしても問題ないと、同社が考えているということだ。
しかし、日本最大のポータルサイトが、広告収入を優先するあまり差別扇動や虚偽情報に対して十分な対策を取らないとすれば、社会通念上問題があると言わざるを得ない。
今回の判決で仙台地裁の村主隆行裁判官は「虚偽の事実が記載されていると知った時点で投稿を削除する義務があった」と、プラットフォーム事業者のヤフーの責任を明確に認めた。また、「人格的利益より虚偽の事実を示した表現の自由を保護する理由は全くない」と、同社に対して厳しいスタンスを示している。
この判決が確定すれば、日本で運営されるプラットフォーム事業者に与える影響は大きい。ヤフーと同様にヘイトスピーチや虚偽情報が問題視されるツイッター社も、何らかの対応を迫られることは必至だ。
※週刊朝日 2018年7月27日号