本誌の取材に対し、元防衛相の浜田靖一衆院予算委員長もこう苦言を呈した。「党内で議論がオーソライズされていない中で、なぜ9条改正なのか疑問で唐突だ。20年施行と期限を切るのも時期尚早と思う。首相の権限が強いのはいいけれども、ちゃんと党内に説明して配慮すべきです。だからハレーションが起こる。官邸と党の意思疎通が取れていない印象を与えてしまい大きな火種を残してしまった。私も注意しましたが、『読売新聞を熟読してください』など最近の首相自身の言動には緩みがあると言わざるを得ない」
村上誠一郎・元行革相は本誌に対し、憤りをこうあらわにした。
「政府は現行の9条で自衛隊は合憲との解釈を取っているのに、単なる3項明記は政治家として非常に短兵急(たんぺいきゅう)な振る舞いです。憲法改正が進まない焦りから、実績作りのためのやっつけ仕事に見える。政治センスがずれている」
保守論壇で首相に近い政治評論家、屋山太郎氏でさえ、「憲法改正という前例を作りたい名誉欲があるのだろう」と言う。政治アナリスト、伊藤惇夫氏はさらに手厳しい。
「首相は憲法や安保に確たる理念は持っていません。単なるお試し改憲レベルの発言だ。公明と維新への配慮は明白で民進の分断を狙ったものでもある。政権は盤石のように見えるが、森友問題や閣僚らの緩みの対応を誤り、強引に抑え込むと党内はきしむ。政界は一寸先は闇です」
前出の政府関係者は、発言の真意をこう読み解く。
「今秋の衆院解散への布石。憲法観で足並みが乱れる民進が壊滅し、共産との野党共闘に楔が打ち込める。3分の2を維持するチャンスをうかがっている」
その一方で、元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう分析する。
「アメリカから自衛隊の明確な位置づけと防衛費の増額を求められ、トランプ大統領を忖度し、改憲せねば、と考えたのでは。アメリカから見れば、アメ車を買ってもらうより、防衛装備品を調達してもらうほうがいい。桁が違うほど軍需産業はおいしいですから」