強力なOB組織の三田会でも知られる慶應義塾。大学から小中高校までを束ねる最高責任者、塾長選出を巡り、学内で疑念が渦巻いている。「独立自尊」の人材が輩出する学び舎で、何が起きているのかジャーナリスト・山田厚史氏が取材した。
「塾長選挙? 関心ないっすね。誰がなっても、変わらないんじゃないですか」
「大学が大きすぎて、経営のことなんてわからない」
新緑がまぶしい日吉キャンパスで学生に聞いた。
「得票が一番多かった候補者が、塾長になれなかったことを知ってる?」
と水を向けると、
「そんなことあるの? 信じられない」「聞いたこともない。知らなかった」
驚きの声が返ってきた。
「学生は知らないはずです。大学は詳細を発表せず、教職員も触れない。口にするのを憚る雰囲気です」
学内事情を知る人は言う。慶應義塾は4月20日、臨時評議員会を開き、清家篤塾長(63)の後任に、元文学部長の長谷山彰教授(64)を選出した。清家塾長の下で常任理事を8年間務めたナンバー2だ。
関係者によると、20日午後2時からの評議員会は珍しく紛糾したという。
議長の岩沙弘道氏(三井不動産会長)は、新塾長を選ぶ銓衡委員会が長谷山氏を指名したと報告。「ご異議なしと思います」と打ち切ろうとしたところ、「異議あり」の声があちこちから上がった。「なぜ得票1位が選ばれない」。「説明してもらわないと、学部に帰って報告できない」と訴えた学部長もいたという。
新塾長は事実上、3日前の17日に決まっていた。
三田キャンパス某所で開かれた塾長候補者銓衡委員会。議事が公表されない秘密会合。内規で塾長は「評議員会が選任」となっているが、実際に決めるのは銓衡委員会だ。投票で選ばれた上位3人から1名を評議員会に推薦する。銓衡委員会の委員長も岩沙氏だ。
メンバーの半数はOBの財界人。多くが長谷山氏を推した。秘密会合のはずの委員会だが、議事メモが学内に密かに出回っている。
メモをもとに、委員会の模様を再現するとこうだ。