パラマウント・シアター、オースチン、テキサス
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ジョン・スコフィールドの泣けるエピソード
Paramount Theatre,Austin,Texas (Sapodisk)

 ブート・マイルスの世界を構築・整備した老舗2大レーベルであるソー・ホワットとメガ・ディスクの個性と方向性は十二分に把握、ここ数年はサポディスクが楽しみでしようがない。とはいえサポさんにはSWのような発掘魂はなく、どちらかといえばMDのライヴ路線を踏襲した感があるが、意外にも音源の選択が鋭く、後発ながらMDに肉迫、さらには同僚クール・ジャズを蹴落としかねない強面へと成長した。このテキサス・ライヴもサポさんらしい仕事で、音質きわめて良好(これもサポさんの武器)、特にジョン・スコフィールドの激しくも繊細な音の連なりが見事に捉えられている。スコフィールドといえば、6曲目の《イット・ゲッツ・ベター》に関してこんなエピソードがある。

《イット・ゲッツ・ベター》はそもそもスコフィールドが弾いたフレーズを元に作られた曲。しかし作者クレジットはマイルスのみ。当初スコフィールドは自分も作曲者としてクレジットを与えられるべきだと怒ったが、即興で弾いたフレーズだから作曲というほどのものではないと判断したらしい。しかし、なんとなく腑に落ちなかったのだろう、ギル・エヴァンスに愚痴をこぼす。「マイルスはどうしてボクやあなたの名前をクレジットしないのだろう」、ギル「マイルスは名声を必要とするタイプの人間なんだよ」、スコ「もう十分に名声があるじゃないですか」、ギル「もっと名声を求めているんだよ」

 ちょっといい話ではあるが、ギルに相談したスコフィールドが悪いともいえる。ギルが貪欲に報酬とクレジットを要求しなかった点に関して、アニタ未亡人がこんなふうに回想している。ちょっと長くなるが、ギルならびにマイルスとの関係を知る上で重要な鍵になると思われるので引用しておこう。「ギルは、お金と自分の名前のクレジットに関しては無頓着だった。マイルスの『ソーサラー』が出るときだった。それはマイルスのアルバムだったけれど、1曲だけギルがアレンジした曲が入ることになった(ナッシング・ライク・ユー)。それでレコード会社からクレジットのことでギルに連絡がきた。ところがギルは『名前なんか入れなくていい』と断ってしまった。これってどういうことかといえば、私たち家族が経済的に苦しむってことなのよ! でもそれがギルの美学だった。もちろん、ギルも自分の名前をクレジットしなかったことを後悔することがあった。特にお金に困っているときは。でもそれを改めようとはしなかった」。うーん、これもまたギルらしい、いい話ではないか。こういう裏話を知ると、音楽がいつもと違う角度から入ってくる。

【収録曲一覧】
1 Come Get It
2 Star People
3 Speak/That's What Happened
4 U'n'I
6 It Gets Better
7 Jean Pierre

Miles Davis (tp, key) Bill Evans (ts, ss, fl, key) Mike Stern (elg) John Scofield (elg) Tom Barney (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)

1983/2/4 (Texas)