「会長は見回りで学校に自由に出入りできるんだけど、うちの娘が『女の子ばっかりに声をかけている』と言っていました」
次第に渋谷容疑者は脳裏に危険な妄想を描いていったのか──。
犯罪心理に詳しい精神科医の岩波明・昭和大学教授が指摘する。
「不幸にも、今回の事件の被害者を見たときに、理想の対象としてひらめいてしまったのではないか。おそらく殺すことまでは考えていなかったと思う。手なずけられる、恋愛関係のような絆を結べると勝手に都合よく考えたと思われます」
事件後、渋谷容疑者は、平静を装って保護者会や学校の行事に参加していた。見守り隊の活動も続けていて、2人の子どもも逮捕前日の今月13日まで学校に通っていたという。
二小会はリンさんの遺族にベトナムへの帰国費用として募金活動を行ったが、会長の渋谷容疑者の名で寄付を募る文書を保護者に配布。4月11日の入学式には、渋谷容疑者は黒のスーツに白のネクタイ姿で臨んでいる。新1年生を前に優しく語りかける口調で、次のようにあいさつした。
「新入生のみなさん、上級生のお兄さん、お姉さんがいるから、安心して登校してください」
今にしてみればあまりにも白々しい言葉だが、内心では差し迫る捜査の手におびえていたことがうかがえる。知人には「俺が疑われている」「取材が来て大変だ」などと漏らしていた。
渋谷容疑者のマンションに住む40代女性は、こう打ち明ける。
「逮捕の数日前だったかな、オーナー(渋谷容疑者)と道路ですれ違ったんだけど、そのとき、私がオーナーの知らない人と話していたんです。今思うと、オーナーは気になったのかもしれないですね。ずっとこっちを見ていました」
ベトナムにいるリンさんの祖母は「あんなかわいい子を一人で登校させて大丈夫か?」と、娘であるリンさんの母親が帰省したときに案じたという。母親は「日本は治安がいいから大丈夫」と答えたというが、その信頼は無残にも打ち破られた。