さらにディランにはこんな意外な一面があった。

「大阪公演のときには宝塚まで行って、宝塚歌劇団の公演を見たことがありましたし、東京で歌舞伎座にも何回か行っていますね。そういう日本文化には興味があるみたいです。新宿に映画のポスターを専門に売っている店があって、昭和の初期のころのレトロっぽいポスターを何枚も買って帰ったことがありました。映画そのものより、そういう日本らしいデザインに興味があったんだと思います。

 そんなディランも人から見られたり、騒がれたり、指をさされたりすることが好きではないようです。ジョン・レノンの例もあるので、セキュリティー面でも気を配っているというのがあります。なるべく人に会わないようにするために、飛行機もプライベート・ジェットで来ます」

 食事に関してもディランは外に食べに行ったりはしないという。

「以前はホテルのルームサービスが多かったですね。白身魚とかスープとか頼んでましたけど、16年の公演では、シェフを連れてきていたので、会場の調理場で作って、ライブの前に少し食べて、さらにそこで作ったものをホテルに持って帰って部屋で食べてました」

 さらにステージでもディランならではのエピソードがあった。

「14年のZeppダイバーシティ東京公演でモニターのパワーサプライが壊れてしまって、モニターからの音が一切聞こえなくなってしまったんです。それで、いったん中断して、機材の調整をするので、20分くらい休憩したんですけど、『これはマズい。ディランが帰っちゃうかも……』と思ったんですよ。そうしたら楽屋でディランが、『昔はモニターなんてナシでやっていたんだから、この状態でいいからやろうぜ』と言ってくれて、安心しましたね。機材とか環境よりプレイすることが重要なんだなと思いました。それで、PAのパワーサプライから電源を取って、モニターからディランの声だけ何とか出せたんです。他のメンバーも自分たちの楽器の音は生で出して、モニターからディランの声だけ聴きながら、最後までやりました。(構成/ライター・Jun Kawai)

週刊朝日  2016年12月30日号より抜粋

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