モンク・イン・トーキョー/セロニアス・モンク・クァルテット
モンク・イン・トーキョー/セロニアス・モンク・クァルテット
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Monk in Tokyo / Thelonious Monk Quartet (Sony)
Recorded At Sankei Hall, Tokyo, May 21, 1963

 右肩上がりの昭和30年代(1955‐64年)、ジャズ・ミュージシャンの来日だけは長く上向かなかった。アート・ブレイキー(ドラムス)のジャズ・メッセンジャーズが訪れた61年にようやく上向き、終盤の63年に前年の6グループから20グループに激増する。1月のジャズ・メッセンジャーズから12月のアニタ・オデイ(ヴォーカル)まで、その顔ぶれはニューオリンズ、ディキシー、スウィング、クール、ハードバップ、ファンキーなど、ジャズ史を概観できるほどだった。なかでも最大級の期待をもって迎えられたのがセロニアス・モンク(ピアノ)だ。過去にもルイ・アームストロング(トランペット)やベニー・グッドマン(クラリネット)は来日していたが、ブレイキーをもしのぐモダン・ジャズの巨人はモンクが最初だった。来日公演のコピー「モダン・ジャズの未知の世界を聞く 高僧セロニアス・モンク四重奏団公演」には多くの先輩が心躍らせたことだろう。

 お断りしておくが本作は傑作ではない。モンクの代表作に数えられることはこれからもないだろう。モンクはまだまだ衰えていなかったがクァルテットのマンネリ化はとっくに始まってもいた。しかしなんと言ってもジャズ史上有数の巨人、モンク初来日の記録だ。「モダン・ジャズの未知の世界を聞く」のは無理にせよ連載から外すわけにはいかない。一行は5月13日と14日の東京を皮切りに22日まで京都、名古屋、大阪、東京、札幌を回った。本作には東京での最終公演の模様が収録されている。コンサートは3部構成で、第2部のジミー・ラッシング(ヴォーカル)のステージを除く第1部の7曲が1枚目に、第3部の4曲が2枚目に収録されている。ジミーのバックはモンクとチャーリー・ラウズ(テナー)が抜けて、ジョージ・ウィーン(ピアノ)が入ったトリオが務めた。米国盤はデザインが異なる。高僧を演出した?発売当時のデザインを継ぐ上掲の国内盤が好みだ。

 十八番の《ストレート、ノー・チェイサー》が始まるやいなや歓声があがる。ブッチ・ウォーレン(ベース)がドスン、ドスンと快適なビートを送るなか、演奏は淡々と進む。滑り出しは上々だ。《パノニカ》ではモンクならではのマッタリ感に浸れる。モンクのソロ《ジャスト・ア・ジゴロ》は実に愛らしい。この日一番の出来だろう。一際高まる拍手と歓声にウソはない。期待が高まるというものだが《エヴィデンス》は次第にダレていく。《ジャッキー‐イング》と端から歓声のあがる《ベムシャ・スウィング》で盛り返すが、やはりハジケない。第1部は《エピストロフィー》で閉幕、短めの拍手に不満が窺える。第3部は《センチになって》で幕開け、これまたプリティなモンクのソロに始まり、フムフムと悦に入っていたら、全員が合流するや演奏は可もなく不可もない方に流れていく。《ハッケンサック》と《ブルー・モンク》の歓声も自ら不満を抑えるものに思えてくる。

 モンクはモンクであり、ラウズはラウズであり、ウォーレンは野太く堅実、フランキー・ダンロップ(ドラムス)は小技に長け、誰が悪いわけでも手を抜いているわけでもない。結局、モンク・クァルテットは“日常業務”を誠実にこなしていただけではなかろうか。モンク目当てに集まった若いファンの喝采をさらったのは彼らが敬遠するブルース歌手のジミーだった。ジャズの現場ではままあることだ。マイ・ペースもほどほどにしないと。ところがだ。2日後、TBSで収録した放送映像のモンク・クァルテットは実に素晴らしい。それぞれが持ち味を発揮、演奏に活力が漲り、長さも展開もルーチン化した同じ曲が短く感じられるほどだ。ジャズにはこういうことがある。これがライヴなら文句なしだった。掲げたものをくさしてほかを薦めるのは詐欺紛いだが、羊頭狗肉の逆なので許されたい。DVD『ソロ・ピアノ・イン・ベルリン ‘69』(ジャズ・ショッツ)に追加収録されている。

【収録曲一覧】
[Disc 1]
1. Straight, No Chaser
2. Pannonica
3. Just A Gigolo
4. Evidence
5. Jackie-ing
6. Bemsha Swing
7. Epistrophy
[Disc 2]
1. I’m Getting Sentimental Over You
2. Hackensack
3. Blue Monk
4. Epistrophy
パーソネル

Charlie Rouse (ts), Thelonious Monk (p), Butch Warren (b), Frankie Dunlop (ds)

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