西川公也農林水産相の辞任は突然のことだった。野党やメディアから政治資金問題の責任を追及されていたさなかの出来事だったが、ジャーナリストの田原総一朗氏は、自民党からの批判がないことに違和感があるという。

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 2月23日に西川公也氏が農相を辞任した。

 西川氏はTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に日本が初めて参加する直前に、砂糖メーカー団体系の企業から100万円の献金を受けていた。

 砂糖はTPP交渉で、日本が関税撤廃の例外にするように強く求めている農産物の重要5項目の一つである。

 献金を受け取ったとき、西川氏は自民党TPP対策委員長として、政府・与党の中心的立場にいた。それでいて業界団体系の企業から献金を受け取ったというのは大いに問題である。

 砂糖メーカーがつくっている団体は精糖工業会で、TPP交渉では、国内の砂糖農家などの保護を訴えている。

 日本がTPP交渉に参加したのは2013年7月のマレーシアの会合からであって、このとき現地で対応に当たったのは、党TPP対策委員長だった西川氏であった。

 西川氏が献金を受けたのは、その会合の6日前だった。

 当時、国内ではTPP参加に対する慎重論が非常に強く、衆参両院の農林水産委員会が砂糖を含む重要5項目を聖域として確保すると決議していた。

 こうした状況での献金はどう考えても問題である。

 さらに、精糖工業会は、農林水産省の事業に絡んで13年3月に、13億円の補助金受け取りが決まっていた。政治資金規正法では、国の補助金の交付決定を受けた企業や団体に対して1年間の政治献金を禁じている。

 もっとも、西川氏に献金したのは精糖工業会ではなく、精糖工業会館であったが、トップが同じで役員の多くが重なっている。 

 こうしたことが2月17日ごろには明白になり、メディアや野党は問題視したのだが、自民党内は気味が悪いほどに静かだった。

 実は、自民党という党は鳩山一郎の時代から、岸信介、田中角栄、中曽根康弘と、いつも必ず反主流派、非主流派が存在していて、いつの時代も多様性があり、大きな問題だと必ず党内で論争が起こる。つまり党内で、主流派に対する厳しい批判の目があるからこそ、暴走することがなかったのである。

 たとえば首相が代わるのも、メディアや野党の攻撃によるのではなく、反主流派・非主流派との戦いに敗れるというのが要因であった。繰り返し記すが、だからこそ暴走することがなかったのである。

 ところが、現在の自民党は反主流派・非主流派というものが存在していない。アベノミクスに対しても、集団的自衛権の行使に対しても、党内に厳しい批判の目というものがなく、党内で侃々諤々の論争が生じていない。もっと言えば、党内に反安倍派、安倍批判勢力が存在していないのである。だから、まとまりが良いとも言えるが、必ず反主流派がいて、そのためにバランスが取れていた自民党を長く見てきた私には、そのことで不安を感じていた。

 話を戻そう。従来の自民党ならば、メディアや野党の批判よりも、むしろ早い段階で西川氏に対する批判が生じていて、西川氏は党内の批判に対処せざるを得なかったはずである。メディアや野党が西川氏批判を展開する中で、静まりかえっている自民党に少なからぬ不安を感じるのは、私がおかしいのだろうか。

週刊朝日 2015年3月13日号