11月8日付の新聞などで、「米国の食品医薬品局(FDA)が使用を制限」と報じられたトランス脂肪酸。

“トランス脂肪酸”という言葉は聞きなれないかもしれない。しかしいつの間にか、日本の食卓でもおなじみになっている。

 トランス脂肪酸は、植物油を加工して作るマーガリンやショートニング、ファットスプレッドに多く含まれており、スーパーやコンビニの加工食品、飲食店のメニューには、これらを使ったパンやお菓子、揚げ物、レトルト、冷凍食品などがあふれている。意識して避けない限り、気付かないうちに食べているはずだ。

 トランス脂肪酸は、摂りすぎると動脈硬化の原因になり、心筋梗塞などの心疾患リスクを増大すると懸念されている。“ジャンクフード大国”の米国が恐れるトランス脂肪酸とは、いったいどんな物質なのか。

 専門用語をかみ砕いて説明しよう。

 あぶら(油脂)は、グリセロールという物質に、酸素・炭素・水素で構成された「脂肪酸」が、最大で三つ結合したものだ。

 脂肪酸は炭素同士のくっつき方によって、「不飽和脂肪酸」と「飽和脂肪酸」に分けられる。「不飽和脂肪酸」とは、炭素と炭素が二重に結合している部分を持つものを指す。

 食品に含まれる不飽和脂肪酸は通常、二重結合している炭素にくっつく水素が「シス型(隣り合うかたち)」になっているが、工業的な加工などで変化すると、水素は「トランス型(互い違いのかたち)」で炭素に結合するようになる。これをトランス脂肪酸といい、工業由来のものと、牛や羊といった反芻(はんすう)動物由来のものに大別できる。

 工業由来としては、(1)常温で液体の植物油に水素を添加して、固体または半固体の「硬化油」、つまりマーガリンやショートニングに加工するときと、(2)サラダ油などを製造する過程で、油特有の臭いをとるために200度以上で加熱処理を行ったときに生成される。米国が問題にしているのは、(1)の硬化油だ。

 国立医薬品食品衛生研究所の畝山(うねやま)智香子研究員は、次のように解説する。

「トランス脂肪酸は天然にも存在するものなので、食品中から完全に除去できません。今回FDAが対象にしているのも、マーガリンなどの硬化油だけです。心疾患のリスクを増加させる懸念があることから、食品に使用して“一般的に安全だと認識できる”物質ではないと発表しましたが、あくまで予備的な決定で、いつから使用制限となるかなどは、まだ不明です」

 さらにこうも言う。

「脂質は3大栄養素のひとつで、細胞膜の成分やホルモンの材料でもあります。報道に過剰反応して、あぶらを極端に減らすのは問題です。トランス脂肪酸の代わりとして、飽和脂肪酸の含有量が多いパーム油が使用される事例が増えているので、飽和脂肪酸の摂りすぎにも注意を向けなくてはいけません」

週刊朝日 2013年12月13日号