このお地蔵さまの建立は、元禄14(1701)年、越前守はほぼ無役の頃である。

 そう考えると、お地蔵さまと大岡さまの出世はリンクしている。

●大晦日の縄解き供養

 神仏分離令の中でも寺社は並立していたが、関東大震災に被災した南蔵院は現地へ移転、この時業平天神社は廃社となってしまった。ただ、業平の名は、南蔵院の正式名「業平山東泉寺 南藏院」として残っている。

「しばられ地蔵」は、1年を通して祈願者から縄でしばられ続けている。これが解かれるのは、1年に1度、12月31日の大晦日の夜のみ。お坊さまたちによる供養が夜11時から行われ、お地蔵さまに巻きつけられた縄が解かれる。

 そして、元旦となった午前0時に再びお地蔵さまには、新年の初縄かけが行われる。「しばられ地蔵」の本来の姿を拝せるのは、わずかな時間のみである。

 また、「縄解き供養」に合わせ、大晦日と元旦の2日間、南藏院では「結びだるま市」が開催されている。あらゆる願いごとを結ぶといわれる「だるま」が授与されるのだが、“手も足も出ない”だるまに、縄を結んで縁起をかつぐ独特のだるまはこの時にしか受けることはできない。

●都内にも3つのしばられ地蔵が

 さて、業平の東下りに加えて、残念ながら「大岡政談」のほとんどは創作話だと言われている。各地の民話や海外からきた説話などが下敷きとなっている。このためなのだろう、しばられ地蔵は実は各地に存在しているのである。

 東京だけでも、文京区の林泉寺、品川区の願行寺、仙台などにも鎮座しており、大岡越前守の人気がうかがい知れる。もっとも、仙台のお地蔵さまは伊達騒動に由来しているとの説もあるようだが。

 しばられ地蔵の縄は、1年間巻かれたままだ。当然元旦に祈願された縄が一番下となる。同じ祈願なら、年の初めがよいに違いない。祈願にでかけるなら、大晦日の縄解き供養から参加することをお勧めしたい。

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