トヨタ自動車とソフトバンクの合弁会社設立のニュースを聞いて、多くのビジネスパーソンは驚いたに違いない。モノづくりを愚直に続けてきたトヨタと時代の変化を巧みに見出し、次々と業態を変えてきたソフトバンクの組み合わせ。どう考えても相性が悪いと思うのが普通だろうが、実際はかなり様子が違った。発表のあった10月4日から6日にかけて、豊田章男会長兼社長と孫正義は2回にわたり舞台に揃って上がり、息の合う様子を見せたのだ。それはなぜなのだろうか。
1956年生まれの豊田社長と57年生まれの孫社長。4日の共同記者会見や6日の東京モーターフェス2018(日本自動車工業会主催)のトークショーでの様子を見ていると、舞台のまん中には年下の孫社長が位置し、年上の豊田社長はその脇に座った。話しぶりも豊田社長がどちらかというと孫社長に気を使っている様に見えた。
企業規模は、売上高がトヨタは約29兆円、ソフトバンクグループは約9兆円。時価総額は日本企業でトヨタは1位、ソフトバンクは3位だがその額はそれぞれ約22兆円と約11兆円(10月10日時点)。トヨタが大きく引き離す。
今回の提携はトヨタからソフトバンクに持ちかけたものだったから、トヨタがソフトバンクを頼りにしたのは事実だが、ソフトバンクもトヨタからの呼びかけは願ったり叶ったりだった。IoTと言われたり、インダストリー4.0と言われたりする、これからの産業はサイバーとリアルとの連携がますます強くなる時代である。自動運転を広めようとしてもコンピューターサイエンスに長けたサーバー企業だけの力では無理がある。デジタル情報の指示で忠実に動く高品質のクルマを効率よく生産できる企業なくしては、未来のクルマ社会は築けない。今後のAIの主戦場は「モビリティサービス分野」だと予測している孫社長も「(自動車メーカーと)組むなら世界一の会社が良かった」と言い、トヨタと連携できたことを喜んだ。
だとすれば豊田社長が孫社長に対し、遠慮がちな態度を取る必要はあまりなく、対等に付き合えばいいように思える。だが「創業者」に対する豊田社長の思いを考えると、孫社長は年下であろうが、企業規模がより小さかろうが、憧れの存在だったのではないかと思うのだ。